台湾有事が現実となったとき、日本が直面する危機は何か。『法律家が見た日本社会の病理 「空気」を打ち破る個と論理の構築へ』(KADOKAWA)を出した明治大学名誉教授の瀬木比呂志さんは「たとえ台湾をめぐる米中戦争で日本にミサイルが落ちても、アメリカはさほど困るわけではない」という――。
会談する高市首相(左)とトランプ米大統領
写真=共同通信社
会談する高市首相(左)とトランプ米大統領=2026年9月22日、米ニューヨークの国連本部(共同)

台湾有事で想定される日本の危機

高市首相は就任早々の2025年11月7日、台湾有事が集団的自衛権行使の要件の一つである存立危機事態にあたりうるという発言、従来の政府見解の枠を踏み越えた発言を国会答弁で行い、中国との間にいらざる摩擦、深刻な摩擦を生じさせ、アメリカ(トランプ)から、台湾に関する発言のトーンをやわらげるように促される事態にまで至った。

国家の利益を大きくそこなう危険なフライング発言だったことは明らかなのだが、高市支持率がそれによって特に下がることはなかった。これは不思議な現象であり、「政治や外交を単なるムードでとらえているのではないか?」との疑問をもたざるをえない。

さて、集団的自衛権行使に関する最も考えやすい危機のシナリオは、日本が台湾をめぐる米中戦争の前線となり、米軍基地や沖縄を始めとする南西諸島に中国のミサイルが落ちてくることであろう。しかし、それは、本当に日本にとっての必然といえるのだろうか?

国粋保守対米追従派の人々を中心として唱えられてきた「日本は台湾をめぐる米中戦争の前線になるべきだ」との議論については、日本人が、自衛隊が、そのような戦争を戦わなければならない必然性の有無、人々がその生命と財産を危険にさらさなければならない必然性の有無が、まずは、当然に説明され尽くされ、議論し尽くされなければならないはずである。

ところが、そのような説明や議論は、政治の側でほとんど行われていない。そして、南西諸島の防備強化等の既成事実だけが、次々と積み重ねられているのだ。

「米国は日本を本当に守るか」議論の停滞

アメリカが日米安保条約によって本当に日本を守ってくれるのかについては、第二次トランプ政権の時代になると、さすがに、日本人の間にも懐疑的な意見が出始めた(2025年2~4月に実施された朝日新聞世論調査では、「いざという場合、アメリカは本気で日本を守ってくれると思いますか」という問いに対し、77パーセントが「そうは思わない」と回答。外交についても「日本の外交はアメリカの意向からなるべく自立したほうがよい」との意見が68パーセントを占めた。また、同年9~11月に実施された内閣府世論調査では、日米関係が「良好」と答えた人の割合が大幅に減少し、過去〔1998年以降〕二番目の低さとなったと報道された)。

だが、これが日本人一般の意見であるなら、安保条約やこれに基づく日米地位協定のあり方、集団的自衛権のあり方に関する深刻な議論が起こってもおかしくないはずなのに、そのような動きはほとんどない。アメリカのベネズエラ攻撃、イスラエルと共同してのイラン攻撃等、国際法上、また国際世論上強い批判を浴びた行動についても、同様のことがいえる。こうした事態の根底には、「そうはいっても、結局、アメリカについてゆくしかない。そのほうが無難」という無意識の精神的機制があるのではないだろうか。