友達との離別とは、どのような経験か。『友達になって後悔してる』(新潮新書)を出したライターの山野井春絵さんは「ほとんどの人に、友人との離別経験があり、それぞれのストーリーはオリジナリティに富んでいた」という――。
自然の中で目を閉じる男性
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友達と数年ぶりに再会した大学生の夏

弁護士資格を持ち、企業の法務部に勤務する浩一さん(47歳)は、男の子2人のパパ。子どものころ仲良くしていた、忘れられない友達がいるという。秀明さん(ヒデ君)とは幼稚園から中学校まで一緒に通った仲だったが、20年以上前から音信不通だ。

「ヒデ君のことはしばらく忘れていたのですが、子どもたちが成長する姿を眺めているうちに、たびたび思い出すようになりました。自分にとって、友達の存在とはどんなものなのかと改めて考えています」。今さら連絡を取ったところでどうなるものでもないと思いながら、もしも機会があるならば、どうしても彼に一言だけ伝えたいことがある……浩一さんはそう言って、幼い日の記憶をたどりはじめた。

私は一浪して、京都の大学に進学しました。数年ぶりにヒデ君と再会したのは、私が3回生の夏でした。当時、私は初めて本気で好きになった女性に振られ、ヤケになってアルバイトとパチンコ三昧、ほとんど大学に行っていませんでした。勉強も、就職活動をはじめる気力もわかず、このまま退学してもいいとすら思っていました。

ヒデ君は、そんな私が一人暮らしをしていた狭いアパートに、突然電話をかけてきました。番号は私の母に聞いたそうです。

ヒデ君に指定されたのは、先斗町ぽんとちょうにある高そうな割烹料理店でした。恐る恐る入っていくと、小上がりの席に長髪のヒデ君と、見知らぬ髭面の男性が座っていました。

深く質問してはいけないという直感

当時その男性は50代。美術系の仕事をしている人でした。ヒデ君は、東京のその男性の家に居候しているのだと言いました。その日、私は生まれて初めて鱧はもを食べ、鮎の塩焼きから骨を抜く方法を知り、日本酒をおいしいと思いました。

夕食の後、近くのバーに入り、納涼床のうりょうゆかから鴨川を眺めて、勧められるままにカクテルを飲みました。男性は支払いを済ませると、「俺は先にホテルに戻っているから、お友達とゆっくりしておいで」とヒデ君にいくらかお札を握らせて去って行きました。

私たちは店を替えてもう少し飲んだ後、鴨川の河原に降り、カップルとカップルの間に場所を見つけて座りました。

私はこのとき、なぜだか、ヒデ君にあまり深く色々と質問してはいけないと感じていました。高校を中退したヒデ君は大学の先生だったお父さんから、知り合いの男性に預けられ、何かしら修業のようなことをしているのだろう……という想像で、勝手に納得することにしたのです。

ふだん飲み慣れない酒で酔ったせいもあり、このときヒデ君と何を話したのか、断片的にしか覚えていません。ただヒデ君が手首につけていたタオル地のリストバンドが赤色だったことと、最後に交わしたやり取りだけを鮮明に覚えています。