昭和20年生まれの同級生仲間
本書『友達になって後悔してる』の最後に綴るのは、終戦の年に生まれた男性の、同級生との離合集散の物語だ。なお本人はすでに鬼籍に入っており、記憶をたどって話してくれたのは、80代になった男性の妻である。
喜良志さんと幸子さん夫婦は同級生。中部地方の田舎町に生まれ、同じ地域に暮らし続けてきた。日本が好景気に沸いた80年代、親友たちとの関係に変化があった。幸子さんは妻として、また同級生として、その様子をつぶさに見てきた。
「口下手な喜良志と、正義感の強い健ちゃん(健次郎)、お調子者の廣と、癇癪持ちの大一郎、泣き虫の夕子ちゃん、そしておっちょこちょいな私」と幸子さんは振り返る――。
あのころ役場の近所に、地元の男性たちが溜まり場にしている炉端焼き屋がありました。店の前にはほぼ毎日、夕方になると大一郎のクラウンと、廣のスーパーカブが止められていました。当時は飲酒運転の取り締まりもずいぶん甘かったのです。
たまに喜良志と健ちゃんも、その店に顔を出していました。「今日は遅くなるよ」と喜良志が電話をしてくる日は、仕事帰りに、きまってその店に寄っていました。
「冗談を真に受けるのが悪い」と言い張る
パーティー(*1)からしばらく経ったある晩、喜良志は「おかしなことになった」と言いながら帰宅しました。聞けば、例の救急車騒ぎが、健ちゃんの店に悪影響を及ぼしているというのです。
*1 「地元の名士」になった大一郎が主催したパーティーで起きた「救急車事件」。代々続く仕出し屋の健ちゃんが用意した「牛刺し」を一皿分も食べた大一郎の一人息子・剛志くんが、会の最中に嘔吐し救急車で運ばれた。
「大一郎たちが酔って、冗談で『剛志くんが死にかけた』なんて言ったらしいんだ。聞いてた誰かがそれに尾ひれをつけて言いふらして、事実とは違う話になって広まったみたいだ。俺は役場の若い子から聞いたから、大一郎に確かめてみたんだが……」
その日も酔っていた大一郎は、「健次郎の店のものを食べて調子が悪くなったのは事実なんだから、何も俺は嘘はついていない。ただの冗談を真に受ける方が悪い」と言ったそうです。
「よくよく聞いてみたら、奥さんの方が神経質になっていて、もう健ちゃんの店は使いたくないと言ってるみたいなんだよ。奥さんが『健次郎さんが謝りに来ない』と。まあ、大一郎も、奥さんには弱いからなあ」
「保健所の指導が入ったわけでもないし、大したことはないでしょうけど、健ちゃんは気分を害してしまうかもしれないわね」
私は、なんだか嫌な予感がしていました。
狭い田舎町です。昔、“ひどいいじめっ子だった健次郎”が、成り上がった牛舎の大一郎を妬み、牛刺しで嫌がらせをした……そんなおかしな噂が、またたく間に広まっていきました。

