根も葉もない噂で途絶えた男同士の友情
逆に、大一郎から電話がかかってきました。大一郎も噂を聞きつけて、憤慨していました。
「旅行に誘われなかっただけで、逆恨みするなんて、健ちゃんも意外と情けない男だな」
喜良志と大一郎が電話でやりとりをしている間、廣がそう私に言いました。
「旅行には誘ったって、言ってたじゃない」。私が言うと、「いや、それが……」。問いただすと、廣は大一郎から健ちゃんを誘うように頼まれていたそうですが、「気を利かせて」誘わなかったそうです。
「店も傾いてきてるみたいだし、旅行なんて心から楽しめないだろうと思って、俺の気遣いだったんだよ」
訴訟騒動は根も葉もない噂でしたが、これをきっかけに、健ちゃんと大一郎・廣は完全に疎遠になってしまいました。
喧嘩もせずに崩れた長年の友達関係
口の悪い人たちがいたものです。商売人同士のすれ違いを面白がって、あることないこと吹聴し、それが人から人へと伝わる間に、まるで違う話になって本人へと戻ってしまう。当人は、相手に問いただすこともせず、悪い噂だけを信じ込み、被害妄想に取り憑かれる……。
直接喧嘩をしなくても、こうして関係が崩れるということがあるのだと、私は悲しい気持ちで傍観していました。
喜良志は中立の立場をとっていましたが、健ちゃんが将棋を指しにわが家に来ることもなくなりました。
やがて健ちゃんはビルを売却し、自宅を改装して、小さな惣菜店を作りました。私はよくその店に買い物に行きました。奥さんはいつも通り接してくれるのですが、健ちゃんはほとんど私とも目を合わせなくなっていました。
はじめは健ちゃんのことを気にかけ、大一郎との仲を取り持とうとしていた喜良志でしたが、何度か突っぱねられたことで意地になり、そのうち連絡することもやめてしまいました。大一郎の主催する旅行にはそれから一、二度参加しましたが、「もう気が乗らない」と断るようになり、炉端焼き屋にもほとんど行かなくなりました。
※なお、本書『友達になって後悔してる』は、プライバシー保護の観点から、インタビューに登場した人物の氏名や属性などを変更・再構成しています。
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