満足しているお客は、なぜ戻ってこないのか?

その直後、ショッピファイはメタとの提携を発表した。Museがショッピファイを使う店舗で商品を探し、同社の決済サービス「Shop Pay」で購入まで済ませられるようにする内容である。

2つの判断は、それぞれの事業の立場から読むとわかりやすい。アマゾンは、顧客が自社の中で探し、選び、買う体験そのものを持つ企業である。ショッピファイは、数多くの事業者が自社の店を開いて商品を売るための仕組みを提供する企業である。新しい買い物の入口が生まれたとき、守りたい接点と、増やしたい取引が違う。もちろん、アマゾンが挙げた安全上の理由は、それ自体として検討されるべき論点である。そのうえで、顧客との接点をめぐる競争という見方を重ねると、2社の判断の違いがよく見えてくる。

冒頭のエイブラハム氏が買うようになったのは、ビンテージのワイン、専門的なスキンケア用品、ドイツ製のサプリメント、製造中止になったジーンズといった、自分で探すには手間のかかる品だった。AIが探す手間を引き受けたことで、それまで目に入らなかった小さな店が、次々と候補に上がってきたのである。

グラスに注がれる赤ワイン
写真=iStock.com/Roxiller
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これは一人の利用経験であり、消費者全体がそう動いているという意味ではない。それでも、この話は大切なことを教えてくれる。

お客が同じ店に戻ってくる理由を、分けて考えてみたい。商品への信頼がある。配送の確実さがある。前回の買い物で満足した記憶がある。しかし、それだけではない。ほかの店を探すのが面倒だから。支払い情報を別の店に登録し直したくないから。そうした理由も、実は少なくなかったはずだ。

探す手間、新規登録の手間がぐっと減る

ポイントや会員の特典には、もちろん実際の経済的な価値があり、AIもそれを比較の材料にする。弱まるのは、それとは別のもの、つまり、ほかの店を探し、比べ、支払い情報を登録し直す手間である。AIがその手間を引き受けるようになると、「わざわざほかを探すのは面倒だ」という理由で同じ店に戻ることはなくなっていく。

一方で、満足が引き継がれる道もある。ブランドへの信頼や過去の満足は、お客がAIに伝える条件になりうる。「このブランドの中から選んで」「前回と同じ店で買って」と指定するお客もいるだろう。満足は、消えるのではなく、AIへの指示という新しい形で表れるのである。

お客の満足を、次の買い物でも自社を選ぶ理由として、どう引き継いでもらうか。商売に、その仕事が新しく加わったのである。