贈り物は、炎だけではなかった

しかし、贈り物は炎だけではなかった。プロメテウスは続けて語る。星の昇り沈みを読む技、あらゆる知恵の筆頭である数、記憶をとどめる文字。牛や馬を軛につなぐ術、海を渡る船、病を癒やす薬の調合。人間は、世界を自分の目で見て、調べ、比べ、判断する力を手にしたのである。

本書では、21世紀の私たちが、この火に匹敵する新たな火を得ていると書いた。その一つが、言語や画像を扱う生成AIという「情報の火」である。

神々から人間へ渡された火が、人間と、それまで人間が頼っていた神々との関係を変えた。ここから、一つの問いを現代へ持ち帰りたい。人間にできることが増えたとき、それまで人間が頼っていた相手との関係は、どう変わるのだろうか。

炎
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「いつもの店で」と「条件に合う店で」は、何が違うのか

仕事用の鞄を買う場面を思い浮かべてほしい。予算はいくらまで、重さはこのくらい、手持ちのパソコンが収まる大きさで、来週の出張までに届けてほしい。これまでなら、自分で検索し、いくつかの店を見比べ、在庫と届く日を確かめていた。その一連の作業を、AIに頼むだけで済ませられるようになりつつある。

ここで、2つの頼み方を比べてみたい。一つは、「いつもの店で、この鞄を買っておいて」。もう一つは、「この条件に合う鞄を探して、買っておいて」。

同じ購入の代行でも、企業にとっての意味はまったく違う。前者では、店はお客によって指定されている。後者では、店を選ぶところから、AIに任されている。

お客が店に不満を持ったわけでも、商品を嫌いになったわけでもない。それでも、買い物を始める場所と、候補を絞り込む過程が変わる。商品にも接客にも満足しているお客が、次の買い物で自社を選ばなくなる。この記事のタイトルが指しているのは、この変化である。