イラン戦争を「勝ち」に見せかける大規模派兵を準備

最もわかりやすいのが、負け戦と言われるイラン戦争を表面的な「勝ち」のように見せかけて終結させるべく、イランやその代理勢力のイエメン・フーシ派に対する派手な大規模攻撃を仕掛けるオプションだ。

実際にトランプ政権はそのような選択肢を温存しているようで、イラン周辺に新たな空母打撃群と約1万人の兵力を送り込もうとしている。すでに中東地域に展開している5万人超の米兵と合わせて、合計6万人規模となる大規模増派で、2003年のイラク戦争以来で最大の集結となる。

10月6日に、メリーランド州ボルティモア港で米海軍の沿海域戦闘艦「ビリングス」を前に、新たな造船廠Arsenal-2の建設を発表するトランプ大統領
10月6日に、メリーランド州ボルティモア港で米海軍の沿海域戦闘艦「ビリングス」を前に、新たな造船廠Arsenal-2の建設を発表するトランプ大統領。(写真=The White House/CC BY 3.0 US)

具体的には、空母ジョージ・H・W・ブッシュと空母ジョージ・ワシントンの2隻に加え、イランやフーシ派の弾道ミサイルを迎撃できる駆逐艦や巡洋艦がすでに多数集まる海域に、母港サンディエゴを9月27日に出発した空母セオドア・ルーズベルトと、2000人を超える海兵隊員が乗り組む強襲揚陸艦マキン・アイランドなど増援部隊が、11月に到着見込みだ。

これにより、中間選挙明けから米議会が新たな会期に入る1月までの期間に、トランプ大統領の命令ひとつで、空母3隻と揚陸群2個がイラン周辺で一斉に行動開始できる体制が整う。

さらに米軍は、イランのエネルギー施設や核施設を標的に、核兵器を除くと最大級の破壊力を持つとされる大規模爆風爆弾「MOAB」の使用を検討していると報じられている。米国とイラン革命防衛隊との交渉が決裂すれば、米軍による短期決戦型の大攻勢があり得るのだ。

北朝鮮の「核兵器保有承認」もない話ではない

軍事力行使は大統領の裁量権が大きく、たとえ選挙で大敗しても、トランプ氏が「ひと暴れ」しやすい分野だ。実際に攻撃が実施されれば、少なくとも短期的に原油価格やドル相場がさらに上昇し、円安などさまざまな経路で日本人の生活を直撃することは不可避となろう。

また、派手な外交による権力誇示もトランプ大統領が好む手法であり、世界をあっと言わせる行動でワイルドに暴れる可能性がある。

トランプ氏は8月17日と19日、9月29日、10月3日と12日の最低でも5回、北朝鮮の金正恩総書記の名前を口にして、「尊敬している」「互いに理解している」「私が金総書記と個人的な関係を築いたおかげで、極東は安全になった」と述べている。

特に、中間選挙直後の11月18~19日の2日間にわたって中国の深圳で開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力)サミットに合わせて金氏と会談することに意欲を見せている。「ロケットマン」こと金総書記もまた、8月以降すでに4回も弾道ミサイルを発射して、トランプ氏に対する「お約束の求愛行動」を見せている。

トランプ大統領は8月19日に、「彼は非常に強力な核兵器を57発持っている。(保有は)決して許すべきではなかったし、私が(開発当時に)大統領だったら許さなかっただろう。だが彼は手にしてしまった」とまで発言している。

米国内政治で制限された権力の自由裁量・行使を、国連安保理事会の対北朝鮮制裁決議の解除で実現し、その緊張緩和の流れで日朝首脳会談もお膳立てした上で、最終的には北朝鮮の核兵器保有承認と米朝国交回復などの形で「世界に平和をもたらすグレートな大統領」としてのレガシーを樹立しようとする可能性もある。

加えて、ウクライナ戦争をロシアに有利な形で早期に終わらせようとするかもしれない。

だが、「歴史の因縁や現地事情」を熟慮せず、トランプ氏の「ノーベル平和賞ほしさ」という動機のみで暴れられて困るのは、北朝鮮やロシアと近隣のわが国である。安倍晋三元首相はトランプ氏と親密な関係で、世界的に有名な「猛獣(トラ)使い」であったが、高市早苗首相が同様にトランプ大統領の暴走を防げるか、腕の見せ所となろう。