手術するためには正確な評価が必要

食道がんは、男性、高齢者、飲酒や喫煙歴の長い人に多いがんの一つだ。標準治療としては、病期に応じて内視鏡治療、手術、抗がん剤と放射線を組み合わせる化学放射線療法などが検討される。

ただし、食道がんの手術は体への負担が大きい。食道と周囲のリンパ節を切除し、胃や腸で食べ物の通り道を再建するため、胸、腹、場合によっては首にまで手術範囲が及ぶ。近年は低侵襲化が進んでいるとはいえ、標準的な手術ができない患者もいる。

「今は、食道がんの手術ができるかどうかの判断は多職種のチームが担当することが多いです。消化器外科医、麻酔科医、看護師、歯科医師、理学療法士、管理栄養士、薬剤などからなるチームが1人の患者さんを多方面から評価し、手術できるかどうかを決めます。難しいと判断された患者さんは、リハビリテーションを行って再度評価し、それでも難しければ手術不能となり、他の治療法を検討することとなります」

テロメライシンの開発者で、食道がんの外科治療にも長く携わってきた藤原俊義医師は次のように続ける。

標準治療に体が耐えられない患者もいる

「食道がんの患者さんは高齢の方が多いです。男性に多く、大酒飲みやヘビースモーカーの方が多いので、肝臓が悪かったり、肺気腫で肺がスカスカになっていたりします。高齢でフレイルな患者さんが食道がんの場合も多い」

標準治療が医学的に正しくても、それを本人の体が受け止められるとは限らない。手術に耐えられない。抗がん剤を使うには腎機能や肝機能が不十分。そうした患者に対して、これまでは放射線単独治療が現実的な選択肢になることがあった。

しかし放射線単独では限界がある。「放射線単独だと、がんが消えてしまう確率は大体2割ぐらい。それをどう増やしていくかというので、今回のテロメライシンが非常に役立つ」。

風邪のウイルスをがん治療に

テロメライシンは、風邪の原因にもなるアデノウイルスをもとにした腫瘍溶解ウイルス製剤で、食道がん病巣に内視鏡で直接注射し、放射線治療と併用する。

本人提供
藤原俊義医師

治験では、放射線単独では限られていた局所の完全奏効率が、テロメライシンを併用することで約半数に達した。

「我々の治験の結果では、テロメライシンを一緒に使うことで50%、半分の患者さんでがんが消えた。30%の差は大きい」

鍵になるのは「テロメラーゼ」という酵素である。正常な細胞では、分裂を繰り返すうちに染色体の末端が短くなり、やがて老化して死んでいく。ところが多くのがん細胞ではテロメラーゼが働き、染色体の末端を維持するため、細胞が死ににくく、増え続ける。

「がん細胞はテロメラーゼが働いているので、いつまでたっても死なない。だから抗がん剤や放射線にも抵抗性ですし、転移していく」