需要が減ったから輸入量を半減できた
WSJが指摘する「中国のしたたかな対応策」だが、まず、航空旅行が減ったのは、当局が旅行を抑制したからではない。中国の人々が財布を締めて、出張や観光を控えたからである。
また、製油所の稼働が落ちたのは、精製の必要が減ったからであり、背景には減産と建設停滞がある。同様に、石炭へのシフトも、デフレ不況によってコスト圧縮の必要性が強まったからである。
これらはWSJが描くような「賢い工夫」というより、「以前から需要が弱まっていたから」だろう。
そもそも「原油輸入を半分に減らしても経済が回ってしまった」というのは、通常は考えにくい。中国経済が旺盛な需要を抱えていれば、石油が半減すれば生産は止まり、物価は跳ね上がり、悲鳴が上がったはずだ。
減らしても困らなかったのは、最初から「需要減」の余地があったからである。先々に需要減が見込まれていて、「それだったら」と先回りして減らしていったとみるべきである。
需要が減り、安売りされるEV
もう一つの要因として、中国におけるEV普及がある。
中国では、内需の停滞を背景にした熾烈な価格競争のうねりで、EVが安値で市場に投入され、普及が加速した。
2026年8月のデータ(1日〜23日速報値)によれば、乗用車の販売台数は前年同期比で22%減少しているにもかかわらず、その縮小する市場の中でNEVのシェアは64.3%へと激増している。一方、ガソリン車は前年同期比で59%減と急激に落ち込んでいる。
原油不足はガソリン車の需要を一時的に押し下げたのではなく、ガソリン車からEV車へのシフトを急加速させ、ガソリン需要を減少させたのである。ブルームバーグは、このガソリン需要について、景気が回復すれば戻るのではなく、構造的な需要減だと説明している。
中国におけるEV普及の加速は「安値販売」のほか、補助金、充電インフラ、ナンバープレート規制など複数の自動車政策が重なった結果である。ただし、価格競争が激しくなったのは、そもそも需要不足が原因である。
基本的には、「EVの拡大が」ではなく、「需要減による安値EVの拡大が」ガソリンの需要を急減させたと見るべきだろう。
こうやって中国経済の実態を追うと、WSJの描く「工夫」とみなしたものが、かなり脆い足場で述べられていることが見て取れる。中国はイラン石油ショックを巧みに乗り切ったのではなく、もともと石油需要が下がっていたところに、燃料不足が需要減を加速させた面のほうが強かったのである。

