クマを連れて酒盛り
仰天しているデボを尻目に、父親とおじさんは何事もなかったかのように酒盛りを始めた。一旦飲み始めると、もうクマも子どもも目に入らない。クマは部屋の隅でうずくまり、前脚の上に顎を乗せてじっとしていた。
いくら待っても、飼い主は自分のことを構ってくれない。だんだん飽きてきたクマは、唯一遊んでくれそうなデボのことをじっと凝視してくる。まんじりともしないクマの視線を、デボは無視し続ける。落ち着かず、居心地も悪いが仕方がない。
かたや、父親とおじさんは喧嘩をしては怒鳴り合い、仲直りしては大笑いし、ひたすら飲み続けている。やがて夜は更け、いつしかデボは父親の隣で眠ってしまった。
翌朝。居間で目を覚ますとすでに大人たちの姿はなく、クマも見当たらない。おじさんが連れて帰ってくれたのだろう。「大変な夜を無事に乗り切った」とデボは安堵した。時計を見ると、もう登校の時間だ。慌ててランドセルを背負って外に出ようとすると、玄関の内側に例の黒いものが横たわっているではないか。
「ヤベッ、おじさん、ツキノワグマを忘れてってるわ!」
玄関に居座り、学校にいけない
奥の部屋で寝ている父親の体を揺するが、酔って寝ると火事があっても起きないといわれていた父親は、「グワァ、グワァ」と、それこそクマのような高いびきをかき続けるだけ。
一向に目を覚ましてくれない。デボは頭を抱えた。そっと脇をすり抜けようとしても、クマが頭をもたげてギロッと睨みつけてくる。ツキノワグマとはいえ、体重が当時のデボの倍はあろうかというクマはやっぱり怖い。結局、部屋の隅で縮こまる他になかった。
「ガンガンガン! ガンガンガン!」。昼前になり、また家の扉が叩かれた。ようやく、おじさんがクマを迎えに来てくれたのだ。戸を叩く音なのか匂いなのか、ツキノワグマは自分の飼い主が来たことを察したようで、喜び勇んで立ち上がった。ドアが開けられると同時にはしゃいでおじさんにじゃれつき、いそいそと帰っていった。
「これで学校に行けるぞ」。ホッと胸を撫で下ろしたデボは、大急ぎで登校した。校舎に辿り着いた途端、午前中の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。デボはそのまま職員室に直行し、担任の先生に、家にクマが居座っていたために遅刻してしまったことを説明して謝った。

