新幹線の運転台に立った15人のインド人
3つ目の鍵となるのは、日本からインドへの技術移転だ。インドは日本から、建設などハード面での支援を受けるにとどまらず、新幹線を動かす人材の育成や安全を支える現場の規律などソフト面でも支えられている。
2026年初め、JICAとJR東日本の協力のもと、15人のインド人の候補生たちが日本で研修を受けた。彼らはムンバイ―アーメダバード高速鉄道を走らせる、インド初の新幹線運転士候補だ。選ばれたのは、地下鉄や在来線で経験を積んだ中堅の鉄道員たち。インド英字日刊紙のフリー・プレス・ジャーナルが2月、「技術的熟練度と、日本の鉄道の世界的に称賛されている安全文化」を習得する研修であると報じた。
JR東日本で研修中のインド人運転士さんたちとご挨拶。 pic.twitter.com/UXKoSVP50r
— 石破茂 (@shigeruishiba) August 30, 2025
研修の一場面が、SNSで広く拡散した。インド人研修生が、日本式の「指差喚呼」を実践する様子だ。指導官と共に、上越新幹線で営業運転中の列車の運転台に乗り込み、計器を指で差し、声に出して状態を確認する。この所作は、ヒューマンエラーを防ぐために日本の鉄道現場で受け継がれてきた。
こうした日々の取り組みがあってこそ、日本の新幹線は高い安全性を実現してきた。非営利ニュースサイトのカンバセーションは、日本の新幹線は1964年の開業から60年あまり、列車事故で乗車中の旅客が命を落としたことが一度もないと特筆している。インドへの技術輸出では、安全を守る精神も、あわせて受け継がれようとしている。動画のなかで研修生は、訓練の厳しさと、日本の規律に適応していく過程を語っている。
軌道も電化も、すべて日本方式
外務省が明らかにしているように、日本政府としても、日本での研修のほか、現地の研修施設の建設を低利の円借款で支援することで、インドの鉄道技術と人材の水準を底上げできると見込んでいる。
技術移転は人材育成と並行して、ハードウエアの領域でも進む。PIBによると、軌道に採用されたのは日本の新幹線の軌道方式に基づく「Jスラブ軌道」で、砂利を敷かないこの構造はインド国内では今回が初の導入となる。スラブを製造する専用工場が、グジャラート州のキムとアナンドの2カ所に新設された。レールの溶接に使う機械の多くはインドで製造されたが、溶接仕上げと検査に関する訓練と認定は、日本の海外鉄道技術協力協会(JARTS)が担った。
電化も日本方式だ。受注したインドの建設大手ラーセン・アンド・トゥブロによると、電化設備は全長508キロにわたる。日本の新幹線の高速電化技術をインドで初めて適用し、時速320キロでの走行を支える。事業資金はJICAが拠出し、発注はNHSRCLに代わって日本側の機関が行った。
いずれも日本方式を採用したからこそ到達できた技術水準だ。対するWhooshは、運営や保守、人材育成の面で中国側への依存が残り、現地への技術移転がどこまで進むのかが懸念点となっている。
「速くて安い」の触れ込みになびかなかったインドは、結果としてインドネシアより堅実な道を歩む可能性がある。

