あらゆる資本の吸引力を生み出す

コンセプトは「指」でもあります。この場合の指とは、「この指とまれ!」の指のことですね。顧客だけでなく、その企画に必要なモノ、注目、お金、仲間など、あらゆる資本の吸引力をコンセプトは生み出します。

「世界中にあなたの家を」をコンセプトに、ハイエンドな別荘を展開するNOT A HOTELも、この「指」の力で成長している企画です。

CEOの濱渦伸次氏はNOT A HOTEL 企画初期の構想についてこのように述べています。

元々はホテル事業に挑戦したいと思っていたんです。リサーチを進めた結果、資金が明らかに不足していることを知りました。様々な金融機関とも話をしましたが、どれだけ借り入れができたとしても、お金が全然足りません。

そこでふと気付いたんです。『お金がないなら、先にお金がもらえる事業をつくれば良いんだ』と。ちょっとした諦めとやけくそから生まれたアイデアが、自分の中でどんどんNOT A HOTELの構想へとつながっていきました。NOT A HOTEL(=ホテルじゃない)というネーミングの由来もここにあります。

「ホテルのようだが、ホテルではない」というコンセプトは、「所有できるホテル」「運用できる別荘」「多拠点に持てるセカンドハウス」といった、これまでのどのカテゴリーにも当てはまらない新しい企画の兆しを周りに伝播していったのだと思います。

「テレビのない客室」が特徴である、星のや東京
「テレビのない客室」が特徴である、星のや東京(写真=ブツチチ/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

その結果、「ベンチャーキャピタルからの資金」「富裕層からの資本」「IT・建築・金融の越境人材の採用」「メディアからの注目」「世界的アーティストや建築家との協業」など、多様かつ唯一無二の資本の吸引に成功し、さらにそれらがこの企画の魅力を爆発的に押し上げました。

さらに2025年には、ファッションデザイナーのNIGO®と音楽プロデューサーのファレル・ウィリアムスの2人がアドバイザー兼投資家として加入し、東京・有楽町駅前の旧有楽町ビルのプロジェクトなど、さらなる新展開を手がけています。

これらの展開は、「歴史がある」「企業の規模が大きい」といった規模の経済の力学だけでは叶えることのできない、「コンセプトに対しての深く強い共鳴」を元にした新たな力の結集によって可能になっています。

消費者の感性や思想と共鳴する世界観を提示

「BOTANIST」や「YOLU」などを筆頭とするD2C型ビューティーブランドを展開するI-neも、コンセプトという「指」で後発企業でありながらP&Gや花王といった老舗メーカーと肩を並べるほどのブランド力を築いた企業です。

吉田将英『コンセプト・ワークス 正解があふれる時代の「自分ならでは」のつくりかた』(WAVE出版)
吉田将英『コンセプト・ワークス 正解があふれる時代の「自分ならでは」のつくりかた』(WAVE出版)

代表的ブランド「BOTANIST」では、「植物と共に生きるボタニカルライフスタイル」というコンセプトを打ち出し、商品機能以上に“生き方や世界観”を提案しました。これは、単にパッケージや成分だけで勝負するのではなく、消費者の感性や思想と共鳴する世界観を提示するもので、SNSを中心に共感を呼び、短期間で爆発的な人気を獲得しました。

商品のヒットと同時に、企業としての成長を支える資本や人材も集めることに成功していきます。2020年に東証マザーズに上場しており、単なるブランドヒットに留まらず、企業体として投資家からの高い評価と信頼を得ました。

2025年4月には、三井住友銀行から約90億円におよぶ「サステナビリティ・リンク・ローン」を調達。このスキームは、企業の掲げる理念やサステナビリティ方針と連動して貸付条件が変動する仕組みであり、「コンセプトの一貫性や社会的意義が金融的価値を持つ」と言い換えられます。

加えて、I-neにはD2C時代を象徴するようなマーケターやブランドマネージャーも集結し、プロダクトとストーリーの両輪を担える人材が内外から惹きつけられ、結果として事業の立ち上げとスケールをハイスピードで実現することに成功しています。