※本稿は、橋本之克『チームは「仕組み化」でうまくいく 組織力を高める行動心理学』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
伸び悩む部下の対応に悪戦苦闘
事例:声かけしても反応が鈍いメンバーのやる気スイッチ、どう見つける?
営業部の若手社員・山田は、新規案件の受注が頭打ちになり、数字も伸び悩んでいた。上司の坂川は「もっと、こうしてみては?」と改善のアドバイスをするが、もともと感情表現が控えめな山田は淡々と受け止めるだけで、手応えがつかめない。
プレッシャーをかけすぎてもよくないだろうと考えた坂川は、「できる範囲でいいから頑張って」と声をかけるが、状況は変わらないまま。
やがて、坂川は「本人のやる気がないのだろう」と受け止めるようになり、山田への期待値を下げる。その空気が部署内にも伝わり、声をかける頻度や仕事の任せ方にも影響が出始める。こうして、本人の姿勢と周囲の関わり方が互いに影響し合い、チーム内のコミュニケーションにも少しずつ偏りが生じていった——。
この場合、部下の「やる気スイッチ」を見つけ出せなかった上司が悪いのでしょうか? それとも、部下が元来、やる気のない人間だったことがそもそもの発端でしょうか?
いずれのパターンも考えられますが、この場面で鍵になるのは、「期待」が本人の行動や成果に影響を与えるという行動経済学の知見です。
その代表的なものが、「ピグマリオン効果」と「ゴーレム効果」です。
人は「期待されている」と気づくと変わる
ピグマリオン効果とは、「自分は期待されている」と感じたとき、その期待に応えようと自発的に行動が変わり、実際の成果も高まっていく現象です。
重要なのは、期待が単なる言葉ではなく、日々の関わり方や声のトーン、任せ方といった「相手への行動」を通じて伝わる点です。
たとえば、上司が部下に「期待しているから頑張って」とだけ声かけするよりも、「部下はヒアリングが丁寧だから、今回の案件はそこを活かしてほしい」と具体的に強みを前提にしていることを伝えた上で仕事を任せると、部下も「自分はその役割を期待されている」と認識し、仕事への姿勢が前向きになるなど行動が変わりやすくなります。
一方で、今回のケースで起きているのは、むしろゴーレム効果です。
私たちは相手への期待値を下げてしまうと、それが無意識に冷淡な態度や機会の減少として表れます。それを感じ取った側は自信を失い、実際に成果が出せなくなってしまう。これがゴーレム効果です。

