「期待できない」という思いから始まる悪循環
反応が薄い、成果が出ていないなどの表面的な情報から、上司や同僚が無意識に期待値を下げてしまう。結果、「やる気がないのかもしれない」という解釈が共有されると、声かけは減り、助言も最低限になり、挑戦的な仕事も任されなくなります。
さらに、期待の低さは態度や距離感から本人に伝わり、部下は「自分はもう期待されていない」と感じ、ますます意欲を失っていく……。
期待が低いから成果が出ず、成果が出ないからさらに期待が下がる。典型的な負のスパイラルはこのように生まれるのです。
このケースにおいて重要なことは、「やる気スイッチ」は本人の内面のみにあるものではないと気付くことです。行動経済学の世界では、人間は周囲からどう期待されているかに反応して行動を調整する存在だと考えられています。つまり、本人の内部だけでなく、周囲の期待のかけ方も「やる気スイッチ」になりうるのです。
期待された結果が「数値」に表れた研究例
期待が行動を変えていくことを証明した有名な研究があります。1964年、教育心理学者のロバート・ローゼンタールらが行なった実験です(注1)。
ローゼンタールらはある小学校で、「これは将来、成績が伸びる子どもを見つける特別なテスト」と偽りの情報を教師に伝えて、通常の知能テストを実施します。その後、教師に「今後、成績が伸びる子」の名前を伝えたのです。その子たちはいずれも、名簿からランダムに選ばれただけでした。
ところが数カ月後、「伸びる子」として選ばれた児童らのIQが、実際に大きく向上したのです。とりわけ、担任教師との関係性がまだ固定化されていなかった小学1~2年生は顕著な効果が見られました。
先ほどの「期待する側」「期待される側」の行動変化に沿って言うならば、教師側(期待する側)が「この子は伸びる」と信じて接することで、無意識のうちに丁寧な説明や前向きな声かけが増え、学習を後押しする関わり方をしました。そして、児童側(期待される側)もその期待を感じ取って学習姿勢が前向きになり、「自分はできるはずだ」と思い込めた結果、成績が伸びたのだと考えられます。
このように、双方向の作用によって、期待が現実の成果を生むことがピグマリオン効果です。
注1:Rosenthal, R., & Jacobson, L. (1968). Pygmalion in the Classroom: Teacher Expectation and Pupils’ Intellectual Development. New York: Holt, Rinehart & Winston.、Rosenthal, R., & Jacobson, L. (1966). Teachers’ expectancies: Determinants of pupils’ IQ gains. Psychological Reports, 19, 115–118.

