※本稿は、橋本之克『チームは「仕組み化」でうまくいく 組織力を高める行動心理学』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
“指示待ち部下”を動かすには
事例:「言われたことしかやらない」メンバーが多いチーム。どうすればもっと自走できるチームに変えられるか?
広告代理店のクリエイティブディレクター・浦野は、ここ最近の自分のチームに歯がゆさを感じている。
優秀なメンバーは揃っているはずなのに、誰もが「指示待ち」の姿勢になりつつある。新しい企画コンペが始まっても、誰かが「まずブリーフを読み込みましょう」と動き出すまで、皆が様子見。途中で止まったタスクは、声をかけない限り再開されない。
浦野自身は、メンバーに「もっと自走してほしい」と何度も口にしてきた。だが、檄を飛ばしても効果は一時的で、しばらくするとまた同じ状態に戻る。
「自走」はかけ声だけでは生まれない、ということは分かっているのだが、では具体的に何を仕掛ければチームは動き出すのだろうか?
冒頭のチームを「動かない」状態にしているものは、いったい何なのでしょうか。新企画が始まっても、誰かが動き出すまで皆が様子見。途中で止まった仕事は、声をかけられてようやく再開する。その背景にはさまざまな要因が考えられますが、表に出ている事象から共通して見えてくるのは、メンバーが「自分から始める」のが難しいという構造です。
「やり始めたものが途中で止まっている」のではなく、そもそも「最初の一歩を踏み出せていない」ところにあると仮定してここでは考えていきましょう。
読み始めた電子書籍が気になる理由
人間は「終わった仕事」よりも、「途中で止まっている仕事」のほうが気になって仕方ない。そんな心理を説明するのが、ロシア出身の心理学者ブルーマ・ツァイガルニクが提唱した「ツァイガルニク効果」です。
ツァイガルニク効果とは、達成済みの事柄よりも、未完了だったり中断されたりした事柄のほうが、記憶に残りやすく、意識にのぼり続ける現象を指します。きっかけとなったのは、ウィーンのカフェで給仕係が「まだ会計していない注文」は正確に覚えている一方、支払い済みの注文はすぐ忘れてしまう様子を観察したことだとされています。
身近な例を考えてみてください。「3巻まで無料!」と電子書籍のキャンペーンを読み始めたら、続きが気になって4巻以降を購入してしまった、という経験はありませんか? 動画配信サービスで無料公開中だったドラマシリーズの第1話の続きが気になって、有料会員に切り替えてしまうのも同じこと。
「続きが気になる」という未完了状態が頭に残り続けるため、つい購入してしまうのもツァイガルニク効果を巧みに利用したマーケティング手法です。「途中で止まっている」という状態は、人を行動に駆り立てる強力なエンジンになるのです。

