3年後に妻ひとりで訪れた

そんなある日、由美子さんが一人でご来談。「今日は私一人で来ました」。そう切り出した由美子さんの表情には、これまでとは違う緊張感がありました。

「このまま夫からの生活費が入らず、貯蓄が減り続けるのは看過できません。熟年離婚を視野に入れています。離婚した場合、私の収入だけでやっていけますかね?」

思いつめた様子で淡々と語る由美子さん。

聞けば、由美子さんが本当に許せなかったのは、無収入そのものより、浩一さんの姿勢だったようです。予約の入っていない日、浩一さんは、朝はゆっくり過ごし、他の講師の研修会に出かけては、そこにもお金を使っていました。由美子さんは変わらず毎朝定時に家を出て、夜遅くに帰ってくる。

同じ夫婦なのに、片方だけが自由に時間とお金を使っているように見えたのでしょう。せめて「家に入れられなくてごめんね。その代わり、隙間の時間でアルバイトをするから」というひと言があれば、由美子さんの受け止め方もずいぶん違ったはずです。

夫婦で「お金の話」をしてこなかったツケ

そこで私共は、ご夫妻そろっての話し合いの場を設けました。お二人から話を伺う中で見えてきたのは、浩一さんが由美子さんに、事業の資金繰りについてほとんど相談していなかったという事実です。確定申告の手伝いを通じて赤字であること自体は由美子さんも把握していたものの、お互いに切り出せないまま3年が過ぎていたのです。

改めて「このままでは、目に見えて貯蓄が減っていく一方です」と、現状をはっきりお伝えしました。

浩一さんは「(妻から)何も言われないから、やりくりできているはず。夢を応援してくれているはずだと信じて疑わなかった。まさかそこまで思いつめているなんて……」と言いつつも、表情を見ればかなり楽観的で、事態を重く見て絶望的な顔つきの妻とは正反対でした。

由美子さんは、「講師の夢を諦めてとは言わない。ただ、家に固定収入を入れてほしい」と、浩一さんに直談判。

目が覚めた浩一さんは、コンビニの夜間バイトを週3日(各4時間)始め、訪れる若い客ひとり一人に深く「ありがとうございました」と頭を下げている。その甲斐あり、少しずつ固定収入(7万2000円)を家計に入れられるようになった。

あわせて、集客目的もあった飲み代(交際費)を4万円→ゼロにし、お互いのお小遣いを1万円ずつ減らす(5万円→3万円)、定期的に通うマッサージや鍼灸代を削る(2万5000円→1万8000円)、食費を切り詰める(6万5000円→6万円)といった家計の見直しも行い、初回相談から5年経った現在は、夫婦の月の手取り32万2000円に対し、支出が22万6600円。月5万円弱だった赤字が、月9万5000円の黒字に転換でき、減った貯蓄の立て直しに充てています。

【図表】メタボ家計BEFORE⇒AFTER

貯金額を元に戻すために、と浩一さんからは「年金の繰り上げ受給をしたほうがいいか」という相談も出ましたが、これは断固反対しました。どうあがいても生活できない状況なら、繰り上げ受空も考えられますが、今はそうではありません。目先の資金繰りのために将来の年金額を減らしてしまっては、本末転倒だからです。

現在、浩一さんは講師業も並行して続けています。人生、もう一旗上げるぞという野心を捨ててはいないのです。そうした夫の姿を見ている由美子さんは言いました。

「一度切れた糸は、もう完全には元に戻らない」

夫は退職金のほとんどを開業資金に使ってしまった。加えて3年間、収入らしい収入を稼がずに貯金500万円を溶かし、身勝手な行動をした。由美子さんはそうした「裏切り行為」を今も許してはおらず、離婚手続きの際に使う公正証書の作成も真剣に検討しているそうです。