コストを抑えられる唯一の手
「採算が合わないからできない」と断りかけた伊達さんだが、以前から「なにか新しい事業をつくりたい」と思っていたこともあり考え直した。
「スズキはインドでのシェアが高い。そして、インドのITなどが注目されている今、日本とインドの関係は今後も増えていくでしょう。そこに特化していけば、仕事になるんじゃないかと思いました。また、私たちは結婚式場の厨房設備を持っています。結婚式は、土日は忙しいけれど平日は割と余裕があるので、遊休資産を活用すればコストも抑えられると考えました」(伊達さん)
鳥善では木、金曜日にブライダル用のフランス料理を用意している。そこで月、火曜日にベジタリアン食をつくることで、元からある設備を有効活用することにした。
みんなが「おいしい」と思える味を探して
スズキからの相談に応える形で、ベジタリアン食の開発が始まった。しかし、鳥善にはインド料理の知見はない。そこで、浜松でインド料理教室事業を展開している「ammikkal(アンミッカル)」や東京在住のインド人主婦に指導を求めた。
さらに、スズキで試食会を複数回行い、味のフィードバックを求めた。毎回10~20人のインド人従業員に実際に食べてもらい、「辛くない」「スパイスが足りない」などの意見を吸い上げ、都度改善を重ねていった。
インド人は食材の「新鮮さ」にこだわる傾向がある。南インドでは料理にココナッツをよく使用するが、「ココナッツがフレッシュじゃないからおいしくない」という意見もあったという。日本で手に入りにくい食材は諦め、あるものでおいしくつくれる素材に絞るという取捨選択もしていった。
さらに、頭を悩ませたのは「地域ごとの味の違い」だ。日本でもその土地ごとに味付けの特色があるように、日本の約8倍の国土があるインドにはさらに多くのバリエーションがある。スズキで働く従業員もインド各地から来ており、すべてに応えるのは無理がある。
「極力、インド全土の人々がおいしいと思える味を探しました。日本人が出汁を飲むと、ほっとするじゃないですか。そういう中心となる旨味みたいなものを探しました」(伊達さん)
地域が違っても、みんながおいしいと感じる味を探すのは「社員食堂ならでは」だと、伊達さんは言う。レストランだったら「自分は南インド出身だから、その地方の料理を出す」という考えで、なんの問題もない。しかし、社食だからこそ、みんなが喜ぶものをつくらなければいけなかった。


