財務長官の対日要求は実は理にかなっている
経済学者として、運がいいときは、私は国際的な学者の集まりで自分の研究を発表する機会をときおり与えられた。さらに幸運なことには、そのうち何度かはレマン湖を見下ろす美しい会場だった。
その発表の場に、いつも姿を見せる一人の経済学者がいた。物静かで思索的、決して論争的ではない男である。彼はニューヨークで私と朝食をともにしたこともある。名前はスコット・ベッセント。現在、ドナルド・トランプ米政権の財務長官を務めている人物だ。
ベッセントは、ジョージ・ソロスが所有するヘッジファンドの運用者として頭角を現した。私が安倍晋三元首相の経済ブレーンに就いたとき、彼はソロスとともに、イェール大学の私を訪ねてきた。彼自身が雑誌で回想しているとおり、私は日本語なまりの英語で、ハンガリーなまりのソロスと彼に向かって、日本経済を立て直すための初期構想を語った。金融緩和はその柱の一つだった。彼はその構想に興奮を覚えたと書き残している。
ところが今日、彼が日本に勧めているのは、正反対の政策である。
ベッセントの現在の上司であるトランプ大統領と、かつての上司であるソロスとのあいだには、共通点をほとんど見いだせない。市場を読むことに人生を費やした投資家と、思いつきのような数字を並べて世界に関税を課す政治家。この二人のもとで働くという経歴は、それ自体が奇妙な取り合わせである。それでもベッセントは、トランプの不合理な関税政策をある程度は抑える役割を果たしているように見える。
そして彼が繰り返し求めているのは、関税とは違って本当に米国産業の助けになりうる一手だ。日本の金利引き上げである。
日本円は対米ドルでおよそ40年ぶりの安値に沈んでいる。日銀は6月に政策金利を1.0%へ引き上げたが、円安が続いている。日銀がさらに金利を引き上げれば円は上昇し、米国の輸出品の競争力は増す。関税のように相手国の報復を招くこともなく、自国の消費者に負担を転嫁することもない。米財務長官としては、まったく筋の通った要求だ。
日本は戦後の復興期を通じて、円安の恩恵を受け続けてきた。安い円は、日本製品に価格競争力を与え、輸出主導の成長を支えた。その時代を終わらせたのが1985年のプラザ合意だった。フランス、西ドイツ、日本、英国が米国と合意し、それぞれの通貨に対してドルを弱めるよう為替市場に協調介入することを決めたのである。
その後の円高は、日本経済の活力を大きく削いだ。人口の高齢化、そして新しい技術への適応に手こずる硬直的な「会社」システムと重なり、数十年にわたる慢性的な経済の停滞をもたらした。日本の企業組織は、終身雇用と年功序列を前提に精緻につくり込まれていたぶん、外部環境が変わったときに組み替えることが難しかった。
こう書くと、私が「円は安いほどよい」と主張しているように聞こえるかもしれない。だが、そうではない。円安が常に望ましいわけではないのだ。
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