「味は3、食感は2」元エンジニアの開発術

ここで興味深いのは、多田さん自身はパンを焼けないことだ。だが、パンの味は最終、多田さんが決める。一体何を基準に良し悪しを判断しているのか。

「私の判断軸は、子どものころから毎日パンを食べてきた経験です。家業に戻ってきて食べたとき、『あ、子どものころの味や』と、記憶が蘇りました。その味を思い出しながら、ああしよう、こうしようと。昔はパンばかりの食卓が嫌で、『ごはんが食べたい』と母によく言っていましたが、その記憶に助けられました」

インタビューに応じる多田社長。仕事の相棒はエンジニア時代から慣れ親しんだThinkPad。
撮影=プレジデントオンライン編集部
インタビューに応じる多田社長。仕事の相棒はエンジニア時代から慣れ親しんだThinkPad。

判断を伝える方法がまた独特だ。多田さんは試作品を口にすると、まず「食感が何種類あるか」を数える。単に柔らかいだけなら1種類、チョコの粒が入っていれば2種類。食べるうちに味が変われば、「味のグラデーションがある」と捉える。色も同じで、ピザパンなら「チーズの黄色、パプリカとトマトの赤色」と数える。

「味は3やな。食感は2やから1つ足して」

感覚で美味しいものを作り上げてきた職人たちに、数字で意見を返す。社内では、「構造設計みたいだ」「SEっぽい」と苦笑いされる。しかし職人からは、フィードバックに的確に対応したパンが返ってくる。それがすごい、と多田さんは微笑む。

異業種から来た社長と職人たちのやり取りが、ダイヤのパンを磨いているのだ。

全従業員に「口癖」を募集

味に加えて「おかんパン」を特徴づけているのが、個包装の袋に書かれた「おかん語録」だ。大阪の母親がよく口にするフレーズが、ひと言ずつ添えられている。

実はこの語録、正社員約80人、アルバイトを含めれば400人を超える全従業員に「あなたのおかんの口癖を教えてください」とアンケートを送って集められたものである。

100近く集まったところから、社長と企画チームが選定したという。

「おかんの言葉って、ちょっとキツく聞こえるものもあるんです。でも私たちは、ちょっと勇気づけられるような、ポジティブなおかんの言葉を届けたいと思って選びました」

前述の「もう寝るで」のようなフレーズも候補に挙がったが、それだとポジティブな雰囲気はなく、大阪の外の人が見ても特に面白みはない。

「考えてもしゃあない 笑ろとこ笑ろとこ」
「思い出だけはなんぼあってもええからね」
「5時間喋れるけど5分黙ってたら倒れるわ」

おかんらしく、かつポジティブな言葉が12種類吟味された。

実在する「従業員の母親」の言葉だからこそ、受け取る人にも響く。語録はその後、母の日のたびに公募で増え、現在は計36種類になっている。

全36種類の「おかん語録」。採用基準は「大阪らしさ」にプラスして「ポジティブかどうか」。どれが出るかは開けてからのお楽しみ。(取材をもとにプレジデントオンライン編集部が作成)
オフィス内にもおかんが潜んでいる。
撮影=プレジデントオンライン編集部
オフィス内にもおかんが潜んでいる。