アンケートでわかった“従業員の意外な気持ち”

アンケートを実施すると、思いがけない結果が返ってきた。「地域を大切にする」「自分たちは地域の会社である」――地域と紐づく項目の棒だけが、平均値を大きく突き抜けていたのだ。

『幸せデザインサーベイ』の写真。「地域とのつながりの強さ」を示す指標が業界平均を大きく上回っている。
撮影=プレジデントオンライン編集部
『幸せデザインサーベイ』の写真。「地域とのつながりの強さ」を示す指標が業界平均を大きく上回っている。

従業員を幸せにする道筋が、ようやく見えた。「地域に愛されるパン屋」になることだ。そこに向かって踏み出そうとしたとき、多田さんの中でかねてから感じていた、ある違和感が頭をもたげた。

クックハウスは大阪で80年経営を続けているにもかかわらず、「大阪のパン屋」として認識されていないことだ。

「京都や神戸には、名前を聞くだけでいいイメージが浮かぶパン屋さんがたくさんあります。でもクックハウスは、大阪のリピーターのお客さまが、転勤などで大阪を離れて初めて『あのパン屋、大阪にしかなかったんや』と気づかれるくらいの存在でした。だから名前を言って『おお』と言われるくらいのパン屋さんにしたいなって」

水道水のように、暮らしに溶け込みすぎていたのだ。客だけでなく従業員自身も、地域を大切にしながらも、「自分たちは大阪のパン屋だ」という自負は薄かった。家族には「ここで働いている」と、自慢しづらいという声もあった。

この構造を変えなければならない。

スタートは「売れなくても、まあいっか」

翌2022年、多田さんは中期経営計画に、ひとつの理念を書き込んだ。

「パンdeしあわせ」だ。

「パンをつくる人も、売る人も、買う人も、食べる人も、みんな幸せにしたい」、という意味である。この理念を行動に落とし込む一歩目として動き出したのが、「私たちは大阪のパン屋です」と世の中に伝えるキラープロダクトの開発だった。

そのプロダクトが、おかんパンである。世間に知ってもらうことが一番の目的のため、売上は二の次。2025年に開催が決まっていた大阪万博を意識して、「お土産としてよその人に買ってもらうこと」を想定してつくられた。

……のだが、販路はなかった。土産屋に置いてもらうあてはなく、置けるのは自分たちの店頭だけ。「パン屋でお土産を買う人なんていない」と考えていたので、「余ったらオトクなセットや試食で出そう」と相談していた。

だから販売数も、1日100箱限定でスタート。100箱なら工場も無理なく作れる。「売れなくても、まあいっか」という感覚だった。