安いアルミを「ゴールド色」にする難題
どうすれば安くできるのか。
ジーンズのファスナーは通常、銅と亜鉛の合金でつくられている。安くするには別の安い素材が必要だ。そこで松嶋氏が頼ったのが、富山県黒部市の研究所で素材開発をしていた見角幸一氏だった。
大学院時代からアルミの研究をしていた見角氏は、銅と亜鉛の合金に代えてアルミを使えば、コストを抑えられることは知っていた。しかし、そこには難題があった。
インドでは、ジーンズのファスナーはゴールド色が定番だった。市場調査でも、アルミの表面をゴールド色にしなければ消費者に受け入れられないことがわかった。しかし、アルミをうまくゴールド色に加工する方法がなかなか見つからなかった。
さらにジーンズの生産現場では、ブルーデニムを脱色したり、風合いを出すために表面を加工したりする。その際にアルミの表面の色が取れたり、ファスナーが壊れたりする問題もあった。
見角氏ら技術者はインドに入り、試行錯誤を重ねた。満足できる全く新しいファスナーをインドで生産できるようになったのは2018年12月のことだった。黒部の研究所とも協力しながら現地の素材メーカー、現場のワーカーとの共同作業だった。
その後も改良は続き、現在は第3世代のファスナーが供給されている。
ゼロだった市場が「年間数千万本」に育った
松嶋社長はこう話す。
「YKKのファスナーは、それまでインドの内需向けジーンズには使われていませんでした。いまでは年間数千万本単位まで増えています」
インドネシアの国内需要向けパンツへの供給本数を合わせると年間1億本を超える新しい市場が生まれたという。高すぎて使ってもらえなかったYKKのファスナーが、価格を抑えた新商品を開発したことで、まったく手が届かなかった巨大市場に入り込んだのだ。
開発を担った見角氏は、現在、黒部で金属材料・プロセスグループ長を務めている。
「最初の目標がとても高く、大変なことになったというのが率直な気持ちでした。ただ当時はファスナーにアルミを使うことはあまりなく、ジーンズにも使えることを実証できました。この要素技術を使えば、アルミの用途がどんどん広がっていくかもしれません」
低価格市場を攻略するために始めたアルミファスナーの開発は、単なるコストダウンにとどまらず、新たな商品開発につながる技術も生み出した。


