妻は言った。「あなたの生きがいは何なの」
再就職探しで悩んでいたとき、ふと、「あなたの生きがいは何なの」と聞かれた。そして「あなたから少林寺拳法を取ったら何が残るの、何も残んないじゃない、仕事もないから少林寺辞めますとなったら、あなたおかしくなっちゃうよ」と言われ、背中を押されるとともに、自分の生きがいや強みについて改めて気づかされたという。
だが、タイムリミットは確実に近づいていた。失業手当支給の最終月を翌月に控え、さすがに再就職はあきらめかというムードが家中に色濃く漂っていた。観念した平岡さんは妻に「4月からアルバイトでもするから」と伝えた。すると、妻は毅然とした顔でこう言ったそうだ。
「何言っているの、よく考えてみなさいよ。あなたはスキルを持っているのに、どうしてそれを使わないの」
ハッとした平岡さん。心の中に少しだけ残っていた小さな炎が再び燃え上がった。
「スキルを登録して派遣先を探してくれる派遣会社を通じて探してもらったんです。こうした派遣会社の存在は知っていましたが、仕組みをよく理解しておらず、躊躇していたんです。登録後ほどなくしてISOの内部監査の仕事が見つかり、派遣エンジニアの仕事が決まりました。その知らせを受け、本当にうれしくて……涙が出て、妻と抱き合って喜びました」
再就活乗り越え働き方や生き方が変わった
前職で培った主流の仕事ではないが、当時、偶然必要に迫られて担当していたスキルが新たな仕事につながった。
現在は常用型派遣(無期雇用派遣)社員として、インフラ関連企業の品質管理部門でマネジメント業務や品質規格の運用などの内部監査の仕事をしている。
今年、同社への勤務は5年目を迎えるが、定時に帰社できるほか、3年目からは週2日、在宅勤務もできるようになった。給与も基準としていた月30万円をキープしており、毎年昇給している。
自宅ローンの返済が残っており、決して生活が楽になったとはいえない。それでも、厳しい再就職活動を乗り越えた平岡さんの仕事や生き方に対する考え方は明らかに変わった。
「自分を犠牲にしてまで気の進まない仕事を一生懸命にやっても潰れてしまったらおしまいです。大事なことは今、自分にとって大切なのは何かを考えることです。仕事なのか、家庭なのか、あるいは余暇を楽しむことなのか、やりたいことの優先順位をつけること。仕事が一番、金を稼ぐことだと思ったら仕事を優先してもいいし、家族との時間を長く過ごしたいと思えばそちらを優先する。人それぞれだと思いますが、今の私は少林寺拳法の指導員と家族との時間を人生の2大メインに置いて、その生活を維持するために働いています」
「少林寺」と「家族」という仕事とはまったく別の要素で命拾いした平岡さんはそう言って、笑った。
新しい職場では新たな品質規格の修得のための勉強も欠かせないが、やりがいを持って働くことができている。
さらに生成AIの資格試験であるAIパスポートの取得も目指している。
「仕事は可能であれば70歳まで続けられたら最高ですが、体力・気力が続く限り働きたいです」
還暦直前の再就職活動でどん底を知って生まれ変わった平岡さんはこれからの人生を味わい尽くすつもりだ。

