56歳で人生最大のピンチ到来
ところが20年以上勤務し、順風満帆と思われた会社人生が56歳のときに突然終止符を打つ。同族企業の経営者と経営の方針を巡って対立し、退職することになった。
どんないきさつがあったのか。
「実験装置が売れなくなり、実験評価部門が収益をカバーしていた流れの中、コロナ禍の影響で“装置”の販売不振がさらに悪化しました。それでも経営者は新しい人を入れて開発をやめようとしない。『私が作っても売れない、開発を抑えるべきだ』と強く進言しても聞き入れてくれません。その矢先に私が事業でミスをしたのですが、そのミスが気に入らない経営者と激しくぶつかり、もう辞めるしかないと思い、辞めますと言い放ちました」
実は方針の違いによる衝突は4年前から顕在化しており、会社に行くのも気持ちが重く、転職しても年収が下がることなどを悩んでいた。ミスが決定打になったとはいえ、役員としてのプライドもあり、我慢に我慢を重ねた末の「56歳の決断」で、いたしかたなかったともいえる。
役員報酬年収800万円がなくなった
しかし、その決断の代償は思いのほか大きかった。辞職により、当然のことながら役員報酬の年収800万円はなくなった。
しかも、退職後の再就職先のあてはなかった。退職したのは2021年5月で、コロナ不況のど真ん中。失業手当が支給されるまでの3カ月間は給与が支給されたが、支給が終わるのは6カ月後の翌年の3月。平岡さんはこれまで経験しなかった再就職活動の厳しい現実と向き合うことになった。
当初、50社以上に応募したが、ほとんど反応がなかった。
「飲食業界など自分のキャリアとは違う職種にも応募しましたが、断りのメールどころか返事が全然返ってこない。失礼な会社だなと思いました」
年齢の壁なのか、バブル世代は使えないというレッテルなのか、前職とのミスマッチなのかわからないが、採用可否の返事すら寄越さないのはあまりにも理不尽だろう。
それでも数社は面接にこぎつけたが、給与待遇があまりに低すぎた。面接を受けたうちのひとつ、プラスチック加工の化学系メーカー人事担当者とのやりとりは今も鮮明に頭に残っている。
「前職のときのISO(国際標準化機構)の品質規格認証の内部監査員の資格が目に留めていただきました。『人員に空きがあるからどうですか』と言われ、『給与はいくらですか』と聞くと、手取りで月19万円。これではやっていけないと思いましたし、勤務地も自宅から遠く、暑い工事現場のようなところで、通うのは無理なので断りました」

