習近平が恐れる水問題の「臨界点」
現在のペースが続けば、華北平原の地下水は数十年以内に農業用途として利用不可能な水準まで低下するという研究もある。
衰退が徐々に進むなら、大規模化や機械化で対策の余地がある。だが地下水は、水位が下がっても汲み上げ続けられる限り生産量を維持できてしまう。深井戸を掘れば、しばらくは同じ収穫が得られる。
だが、「限界」に達した瞬間に生産性が急落する。中国政府はこの「断崖崩落型」のリスクになりがちだ。
その予兆はすでに出ており、2024年には広東や四川で水不足をめぐる小規模な抗議がネット経由で報告され、SNS上では「水貧民」「水分配の不平等」といった言葉が拡散されている。
干ばつに起因する飢饉が中国17王朝のうち少なくとも5つを倒したと言われる。指導者たちがそれを知らないはずはない。だが、目の前の権力闘争と忠誠競争に精一杯なのだろう。
中国資本が日本の水源を買い漁る理由
この問題は対岸の火事ではない。中国の水危機は、少なくとも三つの経路で日本に波及する。
第一に、食料調達コストである。世界最大の食料輸入国である中国の買い付けが国際市場を直撃すれば、日本は同じ市場で競合することになる。
第二に、サプライチェーンだ。2022年の四川渇水が示したように、中国の電力不足は日本の製造業を直接止める。トヨタの成都工場停止は、その予行演習だった。
第三に、人と資本の移動である。北海道のニセコや倶知安など水源近くの土地が中国資本に相次いで取得されてきた。観光開発目的と説明されるが、水不足に直面する国の資本が水源に強い関心を示す構図を、リスク管理の観点から無視するのは合理的ではない。
そして最も警戒すべきは、この制約が中国の対外行動を過激化する可能性だ。水問題で国家運営が危機に瀕して「時間は中国の味方ではない」と認識したとき、何が起きるか。
冒頭で紹介した2026年4月の政治局会議は、中国が水網を自らの制約として認識していることを示す。だが、認識することと解決できることは別である。誤りを認められない体制は、認識した問題にすら正面から取り組めない。
崩壊しないまま長く弱っていく大国と、その弱さゆえに危険になっていく隣国と、どう付き合うか。日本がいま直面しているのは、そういう厄介な課題である。

