「対症療法」しか選べない習近平の事情
問うべきは、なぜ中国政府がこの問題に正面から取り組まないのか、である。
北部の水危機に対処するには、水を大量消費する作物からの転換、産業廃水の規制強化、節水技術の普及といった地道な積み重ねが必要だ。乾燥地帯のイスラエルは点滴灌漑や廃水の農業利用、海水淡水化を駆使し、農業用水を劇的に削減しながら食料生産を拡大した。水危機は技術と政策で乗り越えうる課題なのである。
だが、中国政府が選んできたのは、一貫して巨大インフラによる対症療法だった。南水北調然り、三峡ダム然り、チベット自治区のヤルンツァンポ川で進む世界最大級のダム建設然りである。総工費約24兆円、三峡ダムの3倍の発電量を持つとされるこのダム事業を、李強前首相は「世紀のプロジェクト」と呼んだ。
習近平指導部はなぜいつも対症療法しか打てないのか。それは習近平の独裁体制では政策の誤りを認められないからである。
貴重な水を汚し、「使えない水」に
農業生産量を下げれば「食料安全保障の失敗」になる。地下水採取を制限すれば農民の収入が打撃を受ける。電力を節約すれば経済成長が鈍化する。どの選択肢も、過去の政策判断が誤りだったと認めることになる。
だが、習体制において、それは不可能に近い。独裁体制ゆえに「政策の失敗=習近平の失敗」になり、ぜったいに認められない。習に逆らえないマスコミが糾弾することもなく、政策の失敗は「存在しないもの」として扱われる。
水質汚染も同じだ。生態環境部の2018年データでは、河川流域の地表水の6.9%が「あらゆる用途に不適」、18.9%が「農工業用のみ可」とされる。とりわけ深刻なのが海河流域で、河北省と天津の工業地帯を抱えるこの流域は中国の主要流域で最も汚染がひどく、地表水の半分以上が飲用に適さない。
※ChinaPower「How Does Water Security Affect China’s Development?」
なんと、ただでさえ足りていない水を、わざわざ汚して使えなくしている。愚行と評価するしかない。

