買収後、大倉社長が「最初に語ったこと」
そのスケールメリットやシナジーは、はかりしれない。2022年9月に両社は合意、2023年1月、大吉を経営するダイキチシステムは、正式にエターナルホスピタリティグループ(旧鳥貴族ホールディングス)に入った。
大倉社長は「細かな取り決めはあったが、お互い無茶な要求もせず、話はスムーズに進んだ」と振り返る。ただ、大吉の現場にとっては寝耳に水の話だったようだ。筆者は以前、ダイキチシステムの近藤隆社長を取材したことがある。その際、近藤氏は「知らされたのはグループ入りする1週間ほど前だった」と話していた。
また、「最寄り駅から降りて、自分の店に行くまでの間に鳥貴族の前を通る店主は多くいます。ですから、もちろん驚きや戸惑いはあったのではないでしょうか。それでも大吉の看板を持ち続けてくれたのは、『自分たちは、地元密着の生業だから』と納得してくれたからかもしれません」と店主をおもんぱかっていた。
一方、大倉社長は買収直後、ダイキチシステムの部長クラス以上のメンバーを集め、こう話したという。
「私自身が、師匠が大吉出身で、私の中でも大吉をずっとリスペクトしています。焼鳥市場を作ってくれた会社と一緒にやれることを本当にうれしく思っています」
そして、社内に向けて冒頭の説明をした。
「グループインしても、買った側だからと絶対上から目線になってはいけない。そういう会話もしたらダメですよと言いましたね。私たちは対等だよと」
あえて「変えない」から価値が生まれる
大倉氏の言葉に、この買収の本質がある。
通常、同業種でのM&Aの目的は、さきほども述べた通り、シナジーでありスケールメリットである。すなわち、統合による効率化だ。仕入れを一本化し、システムを統一し、時間と価格のコストを下げていく。実際、鳥貴族は、繁華街の大型店を中心に規模を拡大することで、均一価格を実現する“効率化”により成長してきた。
ところが大吉は、その正反対の論理で回っている。店主が自ら地元で食材を仕入れ、焼台に立ち、客をもてなす「生業主義」だ。売上の管理は本部ではなく、各店が主導している。スーパーバイザー役を担うのは、酒を卸す地元の酒販店。また、ロイヤリティは30年以上ほぼ月3万3000円のまま。
これらの施策を考えると、ある一点に行き着く。店主を大切にしているのだ。焼鳥を売っているようでいて、本当の主役は店主の人柄だ、ということだろう。
だから本部も人件費をかけず、大吉約500店を、わずか10人で支えている。そして、「仕入業者は大吉の宝だ」というスローガンが、創業以来、全店の壁に貼られている。
つまり大吉の価値は、“効率化できないこと”このうえないのだ。
それをマニュアルに落とし込み、標準化しようとした瞬間、その魅力は手のひらの水のようにこぼれ落ち、大吉は大吉でなくなってしまう。
だが、スケールの論理で見れば、それら“非効率”はすべて、統合し標準化すべき対象に映るだろう。そして、効率化のうまみを誰より知るのは、効率を追求して勝ち上がってきた大倉氏自身だった。

