EV一辺倒は地政学リスクに弱い

自動車産業の競争軸は、燃費や価格に加え、電池、鉱物、半導体、電力網をどれだけ安定して押さえられるかへ広がった。経済安全保障の観点から見ると、EV一辺倒の危うさはここにある。BEVは電池を必要とし、電池はリチウム、ニッケル、コバルト、黒鉛、レアアースなどの供給網に依存する。

2025年5月21日に公表されたIEAの「Global Critical Minerals Outlook 2025」によれば、2024年のリチウム需要は前年比で約3割増え、ニッケル、コバルト、黒鉛、レアアースの需要も伸びた。特定国に鉱物の精製、電池材料、部品供給が集中すれば、自動車産業そのものが地政学リスクを抱える。

電池供給網は採掘だけで完結しない。精製、正極材、負極材、セル製造、リサイクル、輸送、品質管理まで多くの工程が重なる。どこか一つが詰まれば、完成車の生産計画は揺らぐ。

これからの自動車産業で問われるのは、最先端の一技術に賭ける勇気だけでなく、危機のときにも動ける選択肢を持つ慎重さである。電池、半導体、ソフトウェア、電力網、充電網、重要鉱物を押さえる力が競争力になるからだ。

電力料金の高騰、輸出規制、関税、紛争、制裁が起きれば、企業の優劣は技術力だけで決まらない。ここでHEVやPHEV、FCEV、内燃機関、合成燃料を残す意味が出てくる。

「エンジン車の逆襲」の“本当の意味”

さらに、自動車は単なる完成品にとどまらない。エンジン部品、変速機、電子制御、素材、工作機械、物流まで、地方の中堅・中小企業を含む広い供給網の集合体である。

単一の動力源へ急に寄せれば、競争力を持つ部品や人材が一気に陳腐化するリスクもある。脱炭素を進めながら産業基盤を残すには、技術の切り替えを市場の速度に合わせる余地が要る。

複数の技術を持つことは、変化への備えである。資源価格が上がればHEVを厚くし、充電網が整う地域ではBEVを伸ばし、水素や合成燃料が使える領域では内燃機関の低炭素化を試す。こうした自由度は、地政学リスクが高い局面ほど効いてくる。

選択肢を残すことは、企業戦略であると同時に、産業政策上の安全弁でもある。日本では自動車の輸出、雇用、地域部品企業が広く結びつく。だからこそ、脱炭素の速度と産業の持続性を両立させる設計が要る。

いま起きている「エンジン車の逆襲」は、過去への回帰より、BEV、HEV、PHEV、FCEV、内燃機関を地域や用途に応じて組み合わせる現実解の再評価に近い。トヨタの勝因は、EVの否定より、複数の脱炭素経路を残した戦略的優位にある。強い戦略は、未来を一つに決め打ちするより、複数の仮説に耐える形で技術を残すことから生まれる。

車のボンネットのクローズアップビュー
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