他人との比較をやめるだけで幸せになれる
会社員なら、「ああ、あれね」と思い当たることがいくつもあるのではないでしょうか。定年後は、そこから外れます。もう正社員ではなく、多くの場合は契約社員または嘱託社員。出世レースは終わりです。役職の重圧もありません。「部長までいけるか」「役員になれるか」なんて考えなくていい。
それだけでも、かなり気持ちは軽くなります。もちろん、かつての部下が上司になることもあって、少し気持ちの整理は必要かもしれません。でも、責任の重さや評価競争から解放されるメリットのほうが大きいと感じる人は多いのです。
給料は下がる。でも、プレッシャーも下がる。競争のストレスから離れ、「できる範囲で、できることをやる」という働き方に変わる。それが、幸福感を押し上げているのかもしれません。「あと10年も働くなんて」と思っているその仕事は、もしかすると、あなたが経験してきた仕事とは、まったく別の顔をしているかもしれません。
ちょっと話はそれますが、じつはこれ、とても大事な話です。
他人と自分を比べるのをやめるだけで、人はかなり幸せになれます。なぜかというと、「比較」はほぼ確実に心をザワつかせるからです。同期の彼は部長にうまく取り入って出世コース。「あいつ、うまいよなあ」と思った瞬間、こちらの幸福度はスッと下がります。別に自分が不幸な出来事に遭ったわけではないのに、です。
優越感は賞味期限が短い
たとえば一時的に自分が優位に立って、「よし、勝った」と優越感を味わえたとしても、それは長続きしません。誰かがもっと大きな成果を出した瞬間、あっさり抜かれます。すると、その場で幸福感は急降下。つまり、他人との比較で得られる幸せは、賞味期限がものすごく短いのです。
しかも厄介なのは、「抜かれないように」と思った瞬間から、ずっと走り続けなければならないことです。これはもう、終わりのないレースです。がんばっても、ゴールはありません。
定年は、ある意味でこのレースから降りる時期なのです。出世競争もない。同期とのポジション争いもない。「誰が上で、誰が下か」という世界から、スッと外れる。それだけでも、幸福感は自然と上がります。しかもフルタイムで働く必要もない。
責任の重さも違う。肩の力が抜ける。これは想像以上に大きい変化です。思想家・投資家のナシーム・ニコラス・タレブの言葉に、こんな一節があります。「真の成功とは、ラットレースから抜け出して、心の平穏のために生きることである」まさに、その通りだと思います。
現役時代は、知らず知らずのうちにラットレースの中にいます。速く走ることが正義で、順位がすべて。でも、本当の成功って何でしょうか。誰かより上に行くことなのか。それとも、穏やかに、自分のペースで生きられることなのか。
定年後の働き方は、後者に近い。だからこそ、給料は下がっても、幸福度は上がる。不思議でもなんでもなく、むしろ自然なことなのかもしれません。

