福祉が利益を追求していいのか、という葛藤
背中を押してくれたのは、澤登さんが経営者として薫陶を受ける、稲盛和夫さんの「利他」の思想だ。澤登さんは稲盛さんの「盛和塾」の塾生だった。ここで福祉が利益を追求していいのかというジレンマに明確な答えが見えた。
「利他と経営が両立するものであるという稲盛さんの言葉で、僕は腑に落ちたんです。福祉であっても健全に、利益を上げていいんだと。それで上場したからこそ、スピーディーに全国展開ができたのです」
今や訪問鍼灸マッサージで業界シェア1位、月間利用者は1万5000人という実績を誇るが、澤登さんは、「早く届けないと」という利用者との約束は果たせていないことを実感する。全国で要介護者は700万人と言われる中、業界ナンバーワンであっても、利用者は1万5000人。まだまだ、足りていない。
「いまだに、健康保険を使って訪問マッサージを受けられるということを、知らない人が圧倒的だと思います。介護の現場でも知らないのです。医療保険を使うので、一部負担で済むんですよ。5000円ぐらいかかる治療ですが、本人は500円でいいんです。介護保険って使える範囲が決まっているから、その枠ではなく、医療保険で使えれば、寝たきりの高齢者へのサービスの選択肢が増えるんです。ケアマネさんにこんないいサービスがあるよと伝え、使ってもらうようになっていますが」
※編集部註:医療保険適用には医師の同意書が必要です
まずは、知ってもらうことだ。医療保険なのでCMを打つことができない制約の中、訪問マッサージを必要としている人全てに、どうやって届けるのか。澤登さんの“約束”は、いまだ途上だ。
起業以来、最大の修羅場
そんな矢先の2025年、澤登さんは起業して以来、最大の修羅場を経験することとなった。老人ホームを建て、終末期の人のホスピス事業に果敢に乗り出した。意気込んでいたのだが……。
「医療依存度が高い人でも自分らしい環境で亡くなる場所を作ろうと、ホスピスを作ったんです。お酒も飲めるし、自由なんです。マッサージとの相性もとてもよくて、いい施設でした。5年で40棟作る目標を立てて、20棟を作ったところで、同業他社の不正が発覚したのです」
その結果、診療報酬が3〜5割下がり、事業推進どころか、維持もままならない。
「勝負しようとフルスイングしたら、転んじゃったみたいな。事業譲渡するしかありませんでした。今までで一番苦しくて、しんどかったですね。利用者をそのまま入居させてくれること、従業員もそのまま雇用することを条件にできたのが、不幸中の幸いでした」
2025年9月のことだった。いいサービスだっただけに、忸怩たる思いだった。何というタイミングだったのか、やり方もきっと悪かったのだと悔やみつつ、澤登さんは「我々フレアスは、何のために存在するのか」ということを一心不乱に考えた。
「やはり、最初の利用者さんとの約束です。早くこのサービスを届けるのだという思い。そして、プライドを持って働ける職場にしたいという理念。ここから、また始めようと」

