「半年ぶりにぐっすり眠れました」

希望が見出せない仕事に行き詰まっていた澤登さんは偶然、「訪問マッサージ」という仕事の存在を知る。医療保険を使って、高齢者に在宅でマッサージをするものだ。澤登さんは新しい分野の仕事に強く惹きつけられ、開業を決意。10万円の給与だったため自己資金がなく、自宅の応接間を事務所にしてスタート。2000年、31歳のことだった。

26年前、創業当時の澤登さん
写真提供=フレアス
26年前、創業当時の澤登さん(31歳)

2000年は幸運にも介護保険制度がスタートした年で、大きな追い風となった。ケアマネジャーという職種ができ、おかげで寝たきりの高齢者とのパイプができたのだ。対象は自身で病院に行くことが難しく、麻痺などで寝たきりか、それに準ずる人たちだ。

こうして澤登さんは、紹介された高齢者に在宅でマッサージを行うこととなった。効果は、目に見えて表れた。脳梗塞で寝たきりになり、痛みのあまり眠れなかった高齢男性が、マッサージで生活が一変した。本人にとって、どれほどの喜びだったか。

「あなたのマッサージで、半年ぶりにぐっすり眠れました。ありがとうございます」

うれしかった。自分の手で、寝たきりの高齢者に喜びを届けることができたのだ。

かつて、10代だった自分の苦しみには何一つ“光”が届かなかった。目の前の寝たきりのおじいさんも、同じだった。先の見えない暗闇で苦しんでいる存在に“光”を当て、少しでも楽になれる“希望”を届ける。これこそ、中国で元気になれた自分が、「日本に持って帰ろう」と決意した、一つの形だった。

忘れられない別れ

澤登さんには今でも忘れられない、利用者との思い出がある。寝たきりの90代男性を、80代の妻が“老老介護”していた家だった。

自宅の一室で施術をしていたころの澤登さん
写真提供=フレアス
自宅の一室で施術をしていたころの澤登さん

妻は夜中でも床ずれにならないよう、3時間おきに夫に寝返りを打たせないといけない。疲れ果てて起きられないと、夫が「何で、起きてこないんだ」と怒鳴ってくる。「私だって、辛いのよ」と毎晩、喧嘩になる。

これが、介護という現実なのか。あまりにも切なく、何かできないかと思いあぐねた澤登さんは、男性にリハビリを提案した。「リハビリなんかいい。俺は死ぬんだ」の一点張りの男性に、まずはマッサージをほどこした。何度か通ううちに次第に体の痛みが和らいでいった。痛みが取れることで心を開き、機能訓練を3カ月行ったところ、寝返りが可能になった。

「奥さんに、『ありがとう』ってすごく喜ばれて。もう、喧嘩しなくて済むって」

男性はさらに頑張り、座れるまでなった。座れれば、ポータブルトイレが自分で使える。

「何カ月ぶりに、おむつじゃなくて自分で排泄したって、男性がわーっと涙を流されて。ああ、これはいい仕事だって思いました」