年金はもともと「保険」だった

ドイツ宰相のビスマルクが年金制度を導入した際には、退職した鉱山労働者が塵肺などで働けなくなり、生活の糧を得られなくなる実態を救済することを目的とした。そのため、年金は働けなくなった場合の「保険」としての役割が、そもそもの目的だった。この制度が生まれた時の思想は今も世界の年金制度に色濃く残っている。

年金掛け金を支払う人は、あたかも自分の将来のために貯金しているように考えるが、実態は現在老後を迎えている人のために拠出金は使われている。いわゆる「付加方式」というものだ。自分が払った掛け金が貯蓄・運用されて、それが年金として戻ってくる、いわゆる「積立方式」ではない。

だから、所得代替率が50%といっても、高額所得者だった人が、その年収の50%を保証されているわけではないし、年金受給者になっても所得が多い人には年金は不支給になる。つまり、困っている人を助けるための「保険」の役割が色濃いのだ。

そんな事もあって、まだまだ働けるのに、年金がもらえなくなるからという理由で仕事をやめてしまう人も少なくない。人手不足の中でシニア層にも活躍してもらいたい政府は、今年からルールを変更した。

電話で話すシニアビジネスマン
写真=iStock.com/Koji_Ishii
※写真はイメージです

モスクワの「コインを拾う老婆」

2026年4月から、働きながら年金を受け取る際の支給停止基準額を、賃金と年金の合計で、これまで月額51万円だったものを65万円に引き上げた。現役世代の平均よりも多い人には年金は出さないという発想を少しずつ変えようとしている。今回の改訂で、高い収入を得ていた高齢者でも、年金が減額されずに満額を受け取れるケースが増えると見込まれている。

2005年頃だったか。ロシアのモスクワを訪れた際、赤の広場の北側の「復活門」付近に人だかりができていた。観光客が後ろ向きにコインを投げていた。どうやら、そこにあるロシアの道路元標のプレートに見事乗っかると「再びモスクワに戻ってこられる」というジンクスがあるらしい。観光客が投げて外れると、老婆たちが一斉にそのコインを拾いに走り回っていた。案内してくれた友人が「物価上昇で、年金では生活できないので、こうやってコインを拾っているのだよ」と語っていた。

国家が破綻してもまがりなりにも年金は出ていたようだが、到底それでは生活はできない。そんな未来が日本にやって来ないことを祈るばかりだ。

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