「剥がれないテープ」との悪戦苦闘

日絆工業がセロテープを普及させるまでの道のりは決して順調ではなかった。セロハンとは木材のパルプを化学変化させた透明のフィルムで、水を吸って湿度に弱い。日本の湿気でセロハンは膨れ上がり、対策には相当な試行錯誤があったそうだ。

なかでも多かったクレームは「テープがくっつきすぎて引き剥がせない」というもの。使い勝手の悪いテープの端を爪でカリカリと探した経験はないだろうか。あの人をイライラさせる状態がセロテープ黎明期では頻発した。

セロテープを一枚剥がしてみると、構造は4層になっている。一番下(貼る面)から順に、対象物をくっつける「粘着剤」、粘着剤を固定する「下塗り剤」、基礎となる「セロハン」、背面からスルッと剥がすための「剥離剤」。これがロール状に巻かれると、一番上にある剥離剤の背中に、次の周の粘着剤がピタリと重なる。

【図表】セロテープの構造
画像提供=ニチバン

粘着剤は強くくっつく性質を持ち、剥離剤はすんなり剥がれる性質を持つ。全く逆の性質を持つものが常に隣り合わせている。テープとは本質的に「くっつく」と「剥がれる」という矛盾を抱えた商品なのである。

ニチバンはセロテープの開発時、数百種の原料を組み合わせて試験を行い、粘着剤と剥離剤の理想的な配合を突き止めた。「素材を選んで挙動を変える粘着技術」――このセロテープのDNAが、後年「たばねら」の自着技術に結実するのである。

紫テープが直面した2度の危機

セロテープをはじめとした粘着技術の蓄積から生まれた「たばねら」も、ニッチな市場ゆえに2度の危機に直面してきた。

一度目はコロナ禍。感染への警戒から、スーパーは野菜を袋詰めにして売るようになり、テープの出番が一時的に減った。「この袋詰めが文化として定着してしまったら困ると思いました」と平山氏は振り返る。コロナ禍が落ち着くにつれ、店頭は元に戻った。

二度目の危機は、より深刻だった。2020年に施行された改正食品衛生法である。食品に触れる素材の規制が厳格化され、それまで「たばねら」で使ってきた粘着剤の材料の一部が使えなくなった。野菜に直接巻くテープである以上、避けては通れない問題である。

そこで平山氏らは、改正食品衛生法への対応と同時に、製法そのものを「ホットメルト製法」へと切り替えることを決断する。粘着剤を熱で溶かして塗布する方式で、可燃性の溶剤を使わずに済み、製造時のエネルギーも抑えられる。安全性、環境負荷、法令対応という三つの課題を一度に解決しにいく、大がかりな再開発である。

しかしこれは、自着技術をゼロから組み直す作業に等しかった。

「10個ある材料のうち1つを似たものに差し替える。すると他のものとの化学反応がうまくいかなくなる。もうパズルですよ。他の材料の量を調整すると、今度はまた別のところがおかしくなる。この繰り返しでした」