なぜ野菜にくっつかないのか

「たばねら」最大の謎は、相手にはくっつかず自分にだけくっつく「自着じちゃく」という性質にある。

「これだけしっかりつくのに、野菜には全くくっついていない。改めて考えると、すごく不思議なことなんです」

販売を担当する平山氏でさえ、そう言う。その不思議さはテープを触ってみるとはっきりわかる。

たばねらを触ってみている手元
筆者撮影

会議室で試してみると、机の表面ではスルッと剥がれるのに、テープの粘着面同士を貼り合わせると驚くほど強い。フィルムが破れるほど力を入れないと剥がせない。この自着の強さこそが、キッチンで何度も体験したあの頑丈さの正体である。

野菜をむしることなくスルッと剥がれ、糊も残さず、それでいて束ねたテープ同士は決して剥がれない。一見すると魔法のような芸当だが、その答えは「相手にくっつく力」と「自分同士でくっつく力」を別々に管理する発想にある。

ニチバンの研究現場では、まずステンレス板にテープを貼って剥がし、その粘着力を数値で測定する。これが「相手への粘着力」だ。一方、テープ同士をくっつけた時の力は「自着粘着力」として別途数値化する。両者のバランスがある一定の範囲に収まるよう、粘着剤の配合を調整していく。

「机の上で数値を出して、葉っぱには残らないだろう、テープ同士はちゃんと留まるだろうと当たりをつける。最後は農家さんに持って行って、実際に使って判断してもらいます」

つまり「たばねら」は、素材を選んでくっつく粘着剤である。なぜそんな器用な粘着剤を作れたのか。実はその源流は、ニチバンが戦後に生み出したあの製品にある。

すべての始まりは「GHQの郵便検閲」

ニチバンの前身は1918年創業の膏薬の会社「歌橋製薬所」である。翌1919年には、ゴム製の絆創膏を製造した。当時は医療や工業の分野ですでにテープが使われていたが、透明のものは存在しなかった。

1930年、アメリカの3M社が世界初の透明なセロハン粘着テープ「スコッチテープ」を発売する。歌橋製薬所創業者の歌橋憲一氏も「こんな便利なものはない」と感銘を受け、セロハンテープの研究を開始した。

戦後日本に進駐したGHQは、すべての手紙を検閲していた。開封した手紙に再度封をするのに使われたのが、本国アメリカから取り寄せたセロハンテープだった。

検閲の量は相当な数となったのだろう。1947年、GHQはセロハンテープの生産を、ニチバンの前身である日絆工業(歌橋製薬所から改名)に依頼する。かねてセロハンテープを研究していた同社は1カ月で試作品を納入し、GHQを驚かせたという。

これが「知らない社員はいない」と平山氏が言うセロテープ誕生の逸話である。セロテープはその後、日本の家庭やオフィスに欠かせないテープとして定着するほどにヒットした。ちなみに現在のセロテープの幅の最小規格である12mmは、GHQが日絆工業にオーダーした2分の1インチ幅の名残である。