布団に横になり、テレビで甲子園の試合を見ていた男性に、水野さんは「(訪問)リハビリさんと一緒に外行ってみるのはどう? 今、桜きれいよ」と誘う。けれど、妻は「今はトイレに行くのがせいいっぱいです」と説明する。「どうしたもんかなあ」と水野さんがつぶやくと、男性は「こんなもんや」とかすかに笑った。

どの訪問先にも、水野クリニックが定期的に発行するお便りがあった
筆者撮影
どの訪問先にも、水野クリニックが定期的に発行するお便りがあった

水野さんは「訪問診療の現場には、生きた証しが雑然と転がっている」という。そこに住む人同士の会話、仏壇の上にあった写真、見ているテレビ番組など、訪れた家ではありとあらゆるものが、その人の暮らしを物語る。

「病院で病院着を着ている患者さんを診るのとはまた全然違うよね。病院では家族構成も家系図みたいなものしか見ないやん」