「自分」だけのフォームをみつける

藝術家はアート制作を通じて「自分」を彫刻する作業を常に行っています。アート思考は「他分」を手放し「自分」を見出す運動なのです。

そうして「自分」を研ぎ澄まし、他にはない「自分」がみえると、実はすごく楽になります。

「大きなもの」の先入観から「あるべき」にとらわれていたり、あるいは他人と比較、競争して息苦しくなっていたのが、無理をせずとも「自分」が一番になれる軸がみつかるからです。「自分」だけのフォームがみつかることで、パフォーマンスがぐっと上がります。

活躍している人や素晴らしい企業(Great company)は必ず「自分」がみえています。たとえばスターバックスはコーヒーショップでありながらコーヒーそのものより「第三の場所」であることを大事にします。

もし、スターバックスが競合を意識して場所以上にコーヒーにこだわり出したり、あるいは利益のために回転率を上げようと椅子の座り心地を悪くしたりすれば、「他分」が増えてよくあるコーヒーショップになり、他と見分けがつかなくなるでしょう。

レゴは1990年代にはTVゲームの登場に危機感を感じ、アパレルやTVゲーム事業などに多角化し、「自分」を見失っていた時期がありました。それをヨアン・ヴィー・クヌッドストープ氏へのCEO交代をきっかけに「Building Experience(つくる楽しみ)」という本来の価値に立ち戻ったことでV字回復し、現在のような成長軌道に戻ることができたのです。

「黒歴史」が歪さのヒントに

キャリアの相談を受けたとき、よく「黒歴史を隠すな」という話をします。今思うと恥ずかしい「黒歴史」や「厨二病」に「自分」が隠れていることがよくあるからです。

書影
若宮和男『超・アート思考 AI時代の人間の創造性とは何か?』(実業之日本社)

当時を思い出すとあまりに恥ずかしくて隠したくなりますが、恥ずかしくて言いたくないような「黒歴史」には、不器用ながらなにか「自分」のエネルギーが漏れ出ていることがあり、「歪さ」のヒントになるのです。

「セルフ・ブランディング」という言葉がありますが、人は「ありたい自分」だけを残して「黒歴史」を隠蔽しようとします。しかしいわゆる「いい」ものだけを残していくと丸くて人と「おなじ」ような形にしかなりません。

起業家はよく「原体験が大事」と言われますが、「原体験」には「黒歴史」的なものも多くあります。それをなかったことにして封印してしまえば、「黒歴史」は「黒歴史」のままです。「黒」かどうかは後の行動によって変わるのです。

「黒」は悪いことというのも単に思い込みにすぎず、他の人にとっては好きな色だということもあります。僕が今、いろいろな企業から新規事業の相談を受けるのも、大企業でものすごく失敗した経験を隠さずに話すようになったからで、失敗が「自分」らしい価値をかたちづくっているわけです。

他の誰ともちがう「歪な自分」に出会い直すために、「ありたい」「あるべき」を手放しましょう。

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