目指すは教育を通したコミュニティづくり
【田原】僕は、杉並の和田中学で民間人校長をやった藤原和博さんをとっても尊敬しています。彼はフランスの試験みたいに、「自殺はいいか悪いか」「親が離婚するのはいいか悪いか」といったテーマで子どもたちにディスカッションさせた。すると、子どもたちだけじゃなくて親も興味を持って参加しはじめたんです。公立学校の崩壊は地域の崩壊から始まるのですが、藤原さんは逆に学校から地域をつくっていったんだよね。こういう取り組みがもっと広がっていけば、世の中は面白くなると思う。
【福原】じつは私たちが目指しているのも、教育を通したコミュニティづくりです。私たちは、コミュニティをつくれるリーダーを育てるだけでなく、ここで学んだ子どもたちや、世界で活躍している日本人の子どもたちを含めたIGSのコミュニティというものをつくっていきたい。藤原さんや私たちの動きでかつてのコミュニティが再生されたり、新しいコミュニティが生まれたりすると、日本も元気になるのではないかと。
【田原】教育は、コミュニティづくりのきっかけになると。
【福原】アメリカのリベラルアーツカレッジを訪問したときに、ある学長さんが「コミュニティをつくれる人間を育てることが、大学のあるべき姿だ」と話していて、非常に印象に残りました。コミュニティは上から与えられるものではなく、一人一人が教育を通して考え、つくっていくものだと思います。
【田原】コミュニティは「公共」と言い換えてもいいですよね。民主党は「新しい公共」と言って結局できなかったけど、福原さんたちの活動には期待しています。頑張ってください。
田原総一朗が見た福原正大の素顔
福原さんはもともと外資系の金融機関にいたが、会社を辞めて自分のスクールをつくった。金融業界にいればリッチな生活を送れたはずだが、その道をあっさり捨てて、次世代を担う子どもたちに向けて教育を行っている。
じつは最近、福原さんのように理想の学校をつくる若い人が増えている。背景には日本の教育への不満や不安があるのだろう。日本の学校では、正解のある問題の解き方をひたすら教える。一方、欧米では正解が複数ある問題や答えのない問題を出して、生徒に自由に討論させる。それによってコミュニケーションや発想力を養っていくわけだ。福原さんも、こうした違いに危機感を抱いて独自のスクールをつくった。ぜひ成功させてほしい。
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)、バークレイズ・グローバル・インベスターズを経て、2010年、グローバルリーダーを育成するInstitution for a Global Society(IGS)設立。近著に『ハーバード、オックスフォード…世界のトップスクールが実践する考える力の磨き方』。
田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経てフリーに。活字と放送の両メディアで評論活動を続けている。『塀の上を走れ』『人を惹きつける新しいリーダーの条件』など著書多数。