日本人が大好きな「エビ」が、食卓から消えようとしている。国内消費の9割を占める輸入エビは、気候変動や環境破壊によって供給網が崩壊の危機にさらされている。この難題に、全くの異業種から名乗りを上げたのが通信の巨人・NTTグループだ。ICTとバイオ技術を駆使して海ではなく「陸上」でエビを「製造」する。一見無謀な挑戦に見えるが、そこには漁業を「データ駆動型の高収益ビジネス」へと再定義する緻密な計算があった――。(前編/全2回、取材・構成=ノンフィクションライター・山川徹)
NTTグリーン&フードが養殖しているバナメイエビ
撮影=プレジデントオンライン編集部
NTTグリーン&フードが養殖しているバナメイエビ

「通信のNTT」と「エビの養殖」の意外な組み合わせ

NTTと、エビの養殖――。一見、結びつかない組み合わせだ。

しかし設立3年足らずのNTTグループ会社「NTTグリーン&フード」は、バナメイエビの陸上養殖で、国内最大のシェアを確立した。年間180トンの生産能力を有し、全国チェーンの串カツ店や大手回転寿司チェーンなどが“NTTエビ”を取り扱う。

浜松市内の居酒屋で提供されている「NTTエビ」
撮影=プレジデントオンライン編集部
浜松市内の居酒屋で提供されている「NTTエビ」。飲食店ごとの要望に応じてエビのサイズを調整することもできる

同社の陸上養殖プラントは静岡県磐田市にある。かつてスズキの子会社が部品を製造していた工場に、16基の水槽を設置する。水槽を満たすのは、地下からくみ上げた海水と淡水をブレンドし、適切な塩分濃度に調整した400トンの水だ。水槽には、それぞれ数十万尾のバナメイエビが飼育されている。

なぜ、通信インフラを担ってきたNTTが、養殖事業に乗り出したのか。そして「陸上養殖」とは何か。NTTグリーン&フードの久住嘉和社長は、陸上養殖事業についてこう語る。

「陸上養殖は、日本の食料自給率上昇に貢献できる大きなポテンシャルを持っている」

養殖を含んだ日本の漁業生産量は、1984年の1280万トンをピークに、2024年には約363万トンにまで落ち込んでいる。陸上養殖は、日本の一産業にどんな影響をもたらすのか。

久住社長に、陸上養殖事業の狙いと可能性を聞いた。

エビが国産化できれば日本の食を守ることができる

【久住】もともと私は、NTTが持つ技術や、研究成果を利用した新規事業を立ち上げる部署にいました。なかでも私が着目していたのが、一次産業です。2019年頃から魚類の研究を手がけるベンチャー企業と共同で陸上養殖の実験などを行っていました。

久住嘉和社長
筆者撮影
久住嘉和社長

日本では、マグロやサーモン、ブリなどの魚のほかに、エビやイカの消費量が多い。せっかく事業化するのなら、日本人がよく食べる魚介類に挑戦したいと思いました。

そのなかから、バナメイエビを選んだ要因のひとつが、トライアルアンドエラーを繰り返せること。というのも、バナメイエビは孵化してから4カ月で出荷できます。養殖技術を確立できれば、年3回の出荷が可能になる。さらには事業化してから明らかになった知見をすぐに次の生産に活かせるというメリットがありました。

国内で消費されるエビの90%以上は、海外からの輸入です。気候変動に加え、養殖による環境破壊が続けば、エビが食べられなくなる日がくるかもしれません。食の安全保障の観点からも、国内で一定の生産量を確保すべきではないか。陸上養殖は、食料自給率向上に貢献し、ひいては日本の食文化を守ることにつながる。NTTが陸上養殖を行えば、水産業の働き方やイメージを刷新できるはずだ。インフラ企業であるNTTこそが、社会性と経済性を両立できる陸上養殖に取り組むべきだと思いました。