通用しなかった「N倍の理論」
【久住】最初に苦労したのが、水です。
エビは、成長段階によって適切な塩分濃度が変わります。とくに稚エビ(エビの赤ちゃん)のときは、塩分濃度が薄い汽水のほうが育ちがいい。それは実験の段階でわかっていました。しかし実験室がある富山と磐田では水が異なります。水温や水質はもちろん、水に生息するバクテリアの種類も違います。富山と同じことを、磐田で再現してみても同じようにはいきませんでした。
当初は、実験用水槽での飼育方法を大きな生け簀に移しても、同じ結果になるはずだと考えていました。
通信の世界では「N倍の理論」というものがあります。まずは最小単位で実証を行い、それをN倍にすれば、結果もN倍になる。陸上養殖でも、小さな水槽で可能なら数倍の規模の水槽でも可能になると考えていました。
しかし生き物にN倍の理論は通用しなかった。
陸上養殖で重要なのは、水流です。水をコントロールして、エビの排泄物やエサの残渣を一カ所に留まらせずに循環させる。ただし、流れの速さや角度を上手にコントロールしないと汚れが一カ所に留まり、水質が悪化してしまいます。
しかも陸上養殖用の水は濁っています。透明な水なら汚れやエサの残渣がどこに溜まっているか目視できますが、水中カメラを使っても把握できません。そこでセンサーで水質を常時チェックし、水温、アンモニア濃度、pH、溶存酸素濃度、微生物量などをチューニングしていき、最適値を見つけ出していきました。試行錯誤の末、水を制する者が陸上養殖を制するということがわかってきたのです。
「漁業の素人たち」がエビの養殖を成功させた
水と水流を制した結果、水槽あたりの生産量は格段に上がり、NTTによるエビの陸上養殖は国内最大規模になった。
久住社長をはじめ、NTTグリーン&フードには、養殖業はもちろん、一次産業の経験者はほとんどいない。もともとNTTグループで働いていたメンバーが、陸上養殖に可能性を感じて集まった。いわば素人集団が、わずか創業3年で事業化を成功させたのだ。

