外食の現場で着実に採用が広がっている「NTTの陸上養殖エビ」。異業種ゆえの失敗を乗り越え、データによる「標準化」に成功した今、プロジェクトはいよいよ第2段階へと移行する。2026年度から段階的に開始されるという、養殖技術とノウハウの「外部販売」。その「仕組み」は、日本の一次産業をどう塗り替えるのか。NTTグリーン&フードが描く未来の食料インフラ構想に迫った――。(後編/全2回、取材・構成=ノンフィクションライター・山川徹)

NTTが始めた高級エビに引けを取らない養殖エビ

透明な水を湛えた生け簀に沈むザル状のカゴには、体長約15センチのバナメイエビが30匹ほど泳いでいる。
出荷直前の陸上養殖されたバナメイエビ。出荷前はエサを抜くことで甘みを際立たせる
撮影=プレジデントオンライン編集部
出荷直前の陸上養殖されたバナメイエビ。出荷前はエサを抜くことで甘みを際立たせる

出荷前の丸一日、この生け簀でエサを抜く。そのひと手間で体内から老廃物が抜け、エビ本来の澄んだ甘みが際立つのだ。収穫したエビは氷締めされ、仮死状態のまま出荷される。

この刺身用の「福エビ」と加熱用の「幸エビ」は、通信大手NTTグループの「NTTグリーン&フード」が静岡県磐田市の陸上養殖プラントで育てるブランドエビだ。

会社設立から3年。いまや“NTTエビ”は、地元の磐田市や浜松市の飲食店にとどまらず、全国チェーンの串カツ店や回転寿司店の期間限定メニューにも使用された実績を持つ。外食のプロたちが「身の締まりが良く、甘みが強い」と舌を巻く品質は、成分分析でも旨味や甘味の指標となる値が高級食材であるクルマエビと遜色ないことが証明されている。

天然や従来型の養殖エビと、陸上養殖のエビは何が違うのか。

NTTグリーン&フードの久住嘉和社長は、陸上養殖で飼育したエビの強みについて語る。

浜松市内の飲食店で提供されているNTTグリーン&フードの“幸えび”
撮影=プレジデントオンライン編集部
浜松市内の飲食店で提供されているNTTグリーン&フードの“幸えび”

寿司屋で生のバナメイエビが食べられる

【久住】天然のエビは気候や海水温の影響を受けやすく、どうしても品質や供給にばらつきが生じます。海外で行われている野池での粗放養殖も、病気対策として抗生物質などの薬剤を使用するケースがあり、必ずしもサステナブルとは言えません。国内の海面養殖も、環境変化や疾病の影響を受けやすく、海洋汚染の原因になるという課題があります。

陸上養殖で育てる“NTTエビ”への愛を語る久住社長
筆者撮影
陸上養殖で育てる“NTTエビ”への愛を語る久住社長

一方で陸上養殖では、プラント内に設置した巨大な水槽でエビを飼育します。水温、アンモニア濃度、pH、溶存酸素濃度、エサを与えるタイミングなどは、NTTが得意とするICTとAIで一括管理しています。エビにとって最適な環境で、栄養価の高いエサを与えることで、味も食感も格段に向上します。

もうひとつの強みが鮮度です。

国内で、刺身で食べられるエビは国産のクルマエビが多いですが、生産量の減少により、安定供給が難しいのが現状です。

バナメイエビの場合は90%以上が輸入で、冷凍されて流通します。そのために寿司屋では茹でたエビが主流でした。

しかし、「福エビ」の生産によって、バナメイエビも生で食べられるようになったのです。