誰もが水産業に参入できるインフラのある社会を目指す
「総合的な企業水産業」
久住社長は目指すべき会社のあり方にあえて“総合”を冠した。そこに込められているのは、家族経営や職人技に依存してきた水産業を、データと標準化によって再構築し、エビ以外の魚種の陸上養殖ノウハウも確立し、広く展開していくという思いだ。
NTTグリーン&フードが国内トップの座を占めるのは、バナメイエビだけではない。大分県でトラフグやヒラメの陸上養殖を行う東和水産を事業継承し、トラフグの陸上養殖でも国内最大となった。
【久住】いま手がけているのはバナメイエビ、トラフグ、ヒラメの3魚種ですが、次の事業としてサーモンの陸上養殖にも着手します。宮城県気仙沼市と連携し、2027年3月の完成を目指してプラント建設を進めているところです。近いうちにブリの陸上養殖にも参入する構想を持っています。
ただし際限なく魚種を増やしていくつもりはありません。
現在、日本では、サーモン、マグロ、ブリ、エビ、イカの順で消費されています。あまり泳ぎ回らないエビやヒラメは陸上養殖に向いている一方で、回遊するマグロやサバは難易度が高いと考えています。需要の大きい魚介類の陸上養殖ノウハウを確立し、標準化して他社に提供できれば、新規参入する企業はさらに増えていくでしょう。
目指すのは、水槽などの設備から、AIによる水質管理、独自開発の餌までをパッケージ化した「養殖プラットフォーム」の提供です。本格展開に向けて、現在は磐田でのデータを研ぎ澄ませている段階。これを導入すれば、土地や空き倉庫を持つ企業が、経験ゼロからでもエビなどの水産物の「生産」を開始できる。私たちはエビなどの水産物を売る会社から、誰もが水産業に参入できるインフラを作る会社へと、フェーズを変えようとしています。
陸上養殖は寿司業界を、日本の食卓を変える
実は、すでに食品メーカーなどから、自社で使用するエビをまかなうために、陸上養殖事業を始めたいという相談を受けています。世界的な食糧危機が危惧される背景もあり、陸上養殖は海外に展開できる事業へと成長していくポテンシャルがあります。
私の父は大阪で寿司屋を営んでいました。かつてはエビも、タイも、ほとんどが天然物で、病気や環境変化の影響を大きく受けて漁獲量が安定しませんでした。そのせいで、価格の変動が激しい上、いつでも食べられるとは限らなかった。
もっと早く陸上養殖の技術が確立できていれば、父の店も……いえ、寿司業界全体が変わっていたかもしれません。
私は、子どもの頃、父に連れられて魚市場へよく通いました。いつかは食に関わる仕事がしたい。そんな思いを抱いたのは、幼い頃から魚が身近だった環境にあったからです。
学生だった90年代にインターネットや携帯電話、PowerMacやWindows95が登場し衝撃を受けました。「これからは通信の時代だ」と感じて、通信インフラ企業であるNTTに就職しました。それでも、将来は食に関わりたいという思いはずっと燻っていました。
食と通信インフラ――。その二つが重なった先にあったのが、フードインフラとなる陸上養殖事業だったのです。

