甲殻アレルギーにも反応しないエビだって作れる

【久住】新鮮なエビを供給する上で大きかったのは、磐田市を拠点にできたこと。磐田にプラントを建設した理由は3つあります。

スズキの部品工場だった場所を間借りして水槽が置かれている
撮影=プレジデントオンライン編集部
スズキの部品工場だった場所を間借りして水槽が置かれている

1つ目は、物流拠点としての強み。収穫したエビをその日のうちに、東京、名古屋、大阪に届けられます。

2つ目が豊富で上質な水。水を制する者は陸上養殖を制する。そう言われるほど、陸上養殖に上質な水は欠かせません。磐田プラントでは、近くを流れる天竜川の伏流水をくみ上げて利用しています。

3つ目が磐田市の後押し。磐田市は「磐田をエビの町にする」と語るほど誘致に積極的に取り組んでくれました。

陸上養殖の強みは他にもあります。品種改良や飼育環境のコントロールを行えば、甲殻アレルギーのもとになる特定のタンパク質を持たないエビを生産できます。毒を持たないフグや、アニサキスが寄生しないサバの生産も可能になります。

ノルウェーは、国策としてアトランティックサーモンの養殖に取り組んできました。昔、サーモンは寄生虫のリスクが高くて生では食べられなかった。しかし品種改良や品質コントロールをした結果、日本でも生のサーモンが食べられるようになり、いまや一番人気の寿司ネタになりました。

陸上養殖も、寿司業界だけではなく、食卓を変えるポテンシャルを持っているのです。

水産業を持続可能な「誰でもできる仕事」に

陸上養殖が変えるのは、寿司業界や食卓だけではない。

一次産業の働き方を変える可能性も秘めている。

磐田プラントのスタッフは、朝8時か9時に出社する。社員の勤務はおおよそ15時~16時ころまで。それ以降に、水温や水質の異常があれば、担当者のスマホのアラームが鳴る仕組みだ。土日も基本は休日となっている。

【久住】従来の漁業では、海が時化たら船が出せません。生き物が相手なので土日も関係なく働く必要がありました。しかし陸上養殖プラントでは、会社員のような働き方が可能です。従業員の働き方も含めて、われわれが目指しているのが、総合的な企業水産業です

農業界では、従来の家族経営型ではなく、企業が主体となって行う「企業農業」が登場してから十数年が経ちます。たとえば、全国にショッピングモールなどを展開する大手企業の子会社が運営する農業法人は、農業でありながら、土日祝日を休日とする働き方を実現しました。さらに収穫した米や野菜をその流通グループが販売するので販路が確立されています。安定した働き方ができるため、学生たちに人気の就職先のひとつになっています。こうした流れが、「3K」と呼ばれて、若者に敬遠された一次産業全体を変えていくはずです。

だからこそ、われわれは「企業農業」に続く「企業水産業」というビジネスモデルを目指したいと考えています。そのためには、職人的な技術や知識に頼っていた水産業を「誰にでもできる仕事」に変えていかねればなりません。

そこで何が必要となるのか。

データの蓄積とデジタル技術の活用です。

いま水産業は、「獲る漁業」から、陸上養殖に進みました。ようやく「企業水産業」と呼べる段階に入ってきたのです。