流動性確保のために

金は世界で最も流動性の高い資産の一つだが、市場が不安定になるとそれが弱点にもなり得る。

急激な下落局面では、多くの投資家は現金を確保するため、最も流動性が高く利益の出ている資産を売却する。他の損失を補填したり、追加証拠金を支払うためだ。

その結果、長期的な保有目的が変わらなくても、金価格は下落することがある。

典型的な「流動性の収縮(リクイディティ・フラッシュ)」だ。

今回の金の下落も、戦争で出た損失を埋めるために投資家が現金を確保しようとした強制的な売却が一因となっている。

株式や他のコモディティが大きく下落する中で、直前まで上昇していた金は、利益確定の余地が大きかった。

金価格は先物や上場投資信託(ETF)など、金に連動する金融商品によって左右される部分が大きい。これらの市場には自動的な売却ルールがあり、いったん下がると売りが一気に広がることがある。

つまり戦争は恐怖だけでなく、ボラティリティ(価格変動)も生み出す。

そのボラティリティが、現代の市場では安全資産とされる資産にさえ機械的な売却を引き起こす。

ETFが下落を加速

金が下落しているもう一つの現実的な理由は、金を買っている人が多すぎる状態になっていたことだ。

金は2026年初頭にかけて歴史的な上昇を遂げていた。これほど人気が集中すると、反転は急激になりやすい。

このような環境では、ショックが必ずしも新たな買いを呼び込むとは限らず、むしろ利益確定を促すことがある。

その動きはETFの資金フローに表れている。

今月の注目データの一つは、主要な金ETFからの大規模な資金流出だ。

レポートによれば、世界最大級の金ETF(上場投資信託)「SPDRゴールド・シェアーズ(GLD)」からは単日および数週間単位で巨額の資金流出が確認されており、短期間で数十億ドル規模の資金が流出している。

このような売り圧力は、短期的には安全資産としての需要を上回る。

現物需要が安定していても、資金が動く主要ルートであるETFの解約は、価格を押し下げる要因となる。

急騰後の単純な利益確定売りの動きも指摘されている。

金の最近の上昇は、長期的なヘッジ目的の投資家だけでなく投機筋も引きつけていたため、トレンドが崩れると一気に売却する傾向がある。

イラン戦争の最中に金が下落しているからといって、それだけで景気後退が確定するわけではない。

より明確なのは、金融環境のタイト化だ。ドル高、利回り上昇、そして流動性を求める投資家の動きが同時に進行している。

この組み合わせは、特に原油高がインフレを押し上げ、利下げを遅らせる場合、中央銀行が判断を誤ったり、株や債券など他の市場で混乱が起きたりするリスクが高まる。

結論はシンプルだ。金はイラン戦争を無視しているのではなく、戦争がもたらす経済的帰結に反応している。そして現時点では、それはドルと高金利を優位にする方向に働いている。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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