<プロの投資マネーは金を売り、ドルや債券に向かっている:ニューズウィーク米国版編集部>
金のインゴット
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世界で危機が起こると、金価格が上がる――「有事の金」だ。

だが今回のイラン戦争では、逆の動きが起きている。原油価格が上昇し、世界的危機を伝える見出しが踊る中で、金価格は急落しているのだ。

イラン戦争が始まった2月28日から本稿執筆時点までで、金価格はおよそ20%下落した。

危機の最中に株や債券だけでなく金まで下落するのは、世界経済の不吉な兆候なのか。

直感に反する動きに見えるが、それは金を単純な「恐怖の指標」として捉えるからだ。

安全求める資産の流入先は

多くの人にとって、恐怖時の資産といえば金だ。だが現代の金融市場では、ショック時に投資家がまず逃げ込む先は米ドルであることが多い。

ドルは世界で最も流動性の高い通貨であり、原油や国際輸送、保険といった基礎的な取引の価格にも使われている。

金はドル建てで取引されるため、ドルが強くなると、ポンド、ユーロ、円、ルピーなどで購入する投資家にとって金は割高になる。その結果、需要が減少し、金価格は下落しやすくなる。

この構造が、今回のイラン戦争で見られるパラドックスを説明する。恐怖そのものは現実に存在するが、それは金の上昇ではなく、ドル高と債券利回りの上昇として現れている。

イラン戦争開始以降の金の下落は、投資家が安全性とアクセスのしやすさから現金、特にドルを優先していることを反映している。

このパターンは過去の危機でも見られ、当初は金が下落し、代わりにドルが選好されることが多かった。

金には利息が付かない

また、金は利息を生まない。この単純な事実は、債券利回りが上昇する局面で重要になる。

イラン戦争は原油価格を押し上げ、インフレが想定より長引くとの懸念を再燃させている。インフレが続くと見られる場合、中央銀行は金利水準を維持するか、少なくとも利下げを先送りする可能性が強い。

これは金にとって不利な環境だ。金利が上昇すれば、利息を生む米国債や預金の魅力が、無利息の金よりも高まる。

インフレが金価格を押し上げるとする見方には、こうした誤解がある。実際には、金はインフレそのものよりも、インフレ調整後の実質利回りの動きに連動する傾向が強い。

インフレの持続によって中央銀行の金融引き締めが続くと市場が見れば、実質利回りは上昇し、金価格は下がりやすくなる。

イラン戦争は原油価格の上昇などを通じてインフレ懸念を高めており、それが利回り上昇と利下げ期待の後退を招き、金のような無利息資産に逆風をもたらしている。