患者は薬を手放せなくなる理由

患者は睡眠薬――私は「抗覚醒薬」とも呼んでいる――の服用中止を怖がることが多い。極度に怖れているシナリオは、ストレスを感じながらベッドに横になり、再び疲れ果てた日々が続くというものだ。

睡眠療法士としての経験から言うと、服薬中止が困難な理由は患者がもっと眠りたいからではなく、不安なまま目覚めている辛さに戻りたくないから、というのがほとんどだと思う。

様々な悪影響があるにもかかわらず、薬がもたらす最も大きなものとはまさにこれなのだ。患者は薬を手放せなくなる。睡眠を向上させる、もっと自然な方法があることに気づいていない人は多い。

要約すると、睡眠薬の服用中止は患者に不安、認知の懸念、一時的な睡眠の状態の悪化といった禁断症状を起こす可能性が高い。薬が効かなくなり、健康に悪影響を及ぼす可能性もあるのに、患者は薬を使い続けてしまうことも多い。

それでも、ほとんどの場合で服用中止をお勧めしたい。もちろん、必ず医師に相談する必要がある。睡眠薬に代わる手段というものもある。長期的に効果があり、より自然な方法で睡眠を促進できる最も強力なテクニックの一つを説明したい。

睡眠問題治療のゴールドスタンダード

薬剤の介入なしで睡眠問題に最も効果のある治療のゴールドスタンダードは「不眠症のための認知行動療法(CBT-i:Cognitive Behavioral Therapy for insomnia)」と呼ばれる。メタ分析では、症例の70〜80%で治療効果があることが判明している。

私が睡眠医学センターの同僚と共同で行った研究では60人の患者がCBT-iの治療を受けたのだが、その結果は感動的なものだった。

患者のほとんどは不眠症治療のためにかかりつけ医からの紹介でセンターに来ており、事前に他の睡眠専門医や神経科医の問診を受け、身体的な問題が原因である可能性はないとされていた。

私たちはまず、患者に不眠症に加えて精神疾患があるかどうかを調べた。不眠症の度合いを測定するため質問票を配布し、質問項目には性格や生活の質などの可変要素も含めた。患者は4〜6週間のプログラムに参加し、睡眠の心理教育を受けた。

「睡眠ダイアリー」をつけ、リラックスするトレーニングと行動療法を受けるのだ。睡眠の改善のため就床時間を短くする睡眠制限や、眠れない時には起き出すようにする刺激制御なども行われ、場合によっては認知療法も施された。

睡眠に対するネガティブ思考に対処し、患者が不眠を前向きにとらえ、リラックスすることで睡眠の改善につながった。

睡眠ダイアリーをつける人
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治療終了時と3カ月後の追跡調査で睡眠がどの程度改善したか、治療の効果を検証した。すると、精神疾患のない不眠症患者の約83%が治療終了時に症状がなくなったと報告した。

睡眠時間は治療前より平均1時間20分長くなり、ベッドで起きている時間は治療前の44%から20%に減った。入眠に平均80分かかっていたのがベッドに入ってから24分後には入眠するようになった。一定期間、睡眠問題を抱えていた場合、治療への反応が悪いのではないかとも思われていたが、そうではなかった。