不眠に睡眠薬は有効か

古代エジプトの治療師はアヘンやサフランなどを不眠症の主な治療薬レメディーとしていた。先に見てきたように中世ヨーロッパでは夜中の覚醒を普通のこととみなしていたため、不眠にはあまり注意が払われなかった。

16世紀になる頃には軟膏、錠剤、水薬ポーションで不眠症を治療していた。1960年代初めにはベンゾジアゼピン系の睡眠薬が定期的に処方されるようになった。

近年、睡眠薬を処方しない、または処方量を減らすことが支持されるようになった。

明確な理由がある。睡眠薬を服用しても、客観的に見ると睡眠時間はほとんど増えず、客観的な睡眠の質が低下することをご存知だっただろうか? これは大切なことだ。客観的な睡眠の質は身体の健康と身体機能全体に最も重要だからだ。

研究では、睡眠薬の服用をやめて15日後には、客観的に見て服用中と同程度に眠れるようになることがわかっている。服用中止後しばらくは、身体が薬に慣れているため睡眠の状態が悪くなるが、その後は服薬なしでも同じ時間眠れるようになる。さらに、服用を中止すると、深い眠りの量と客観的な睡眠の質が大幅に向上する。

ベンゾジアゼピン系薬剤や非ベンゾジアゼピン系薬剤のもう一つの欠点は、認知機能の低下を引き起こす可能性が高いことである。服用が短期でも長期でも、注意力、作業記憶、エピソード記憶に問題が生じかねない。

書類に目を通すビジネスマン
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服用中止後も最長6カ月は認知障害の原因に

高齢者(55歳以上)を対象とした研究では、非ベンゾジアゼピン系薬剤のゾルピデムは、服用中止後も最長6カ月は認知障害の増加の原因になることが判明した。

それでも産業社会ではベンゾジアゼピン系薬剤や非ベンゾジアゼピン系薬剤の使用率は依然として高い。ベンゾジアゼピンは睡眠を改善するためだけでなく、不安を軽減する、筋肉を弛緩させるためにも用いられる。また、これらは精神科で最も一般的に処方される薬でもある。

米国では20人に1人以上が処方を受けている。睡眠の問題に用いられる場合、睡眠への悪影響、副作用、依存症のリスクがあるので処方を短期間(4週間未満)にするのが一般的な規則だが、2018年の調査によると、英国では25万人以上がベンゾジアゼピン系薬剤や非ベンゾジアゼピン系薬剤を推奨期間を超えて服用している可能性が高かった。

ヨーロッパのある研究では、不眠症患者に平均15週間以上処方されていた。国によって違いが大きく、英国では平均7週間強、ドイツでは平均約11週間、スペインでは平均約23週間だった。