※本稿は、メライン・ファンデラール(著)、國森由美子(訳)『熟睡力』(新潮社)の一部を再編集したものです。
スマートウォッチでは脳の活動は測れない
現代人は新しいテクノロジーで健康を把握したいという思いにますます駆りたてられている。スマホには1日の歩数を表示する機能がある。血圧計は薬局で購入できる。スマートウォッチは活動レベルや体温、血中酸素濃度、心拍数まで測定できる。皮膚の表面に流れる電流を測定することで、ストレスレベルを追跡しているという人もいる。
ユーザーは一日の終わりにストレスレベルの上昇・低下についての測定レポートを受け取り、パターンを把握して原因の特定に役立てる。健康に関することは何でも数字で表せるはずだ、それが現在の体調を知る適切な手段だ、という考え方がそこにある。
スマートウォッチの多くは睡眠の質も測定し、「睡眠スコア」に変換する。また、過去数晩のレム睡眠とノンレム睡眠の割合をきれいなグラフで表示する。
ここで浮かぶ疑問は、第1に、この測定は正確なのだろうか? ということで、第2には睡眠改善に役立つのだろうか、睡眠を数字で表すことに意味があるのだろうか? ということだ。
睡眠ポリグラフ検査は、客観的な睡眠の質を測定するゴールドスタンダードである。この睡眠検査には脳の活動を測定するという重要な特徴がある。
現在消費者が自宅で利用できる機器では測定できない。ほとんどのウェアラブル機器で、睡眠や覚醒を検知して表示するのに用いられるのは加速度計、熱流センサー、光学式血流センサーだ。また、この種の機器はユーザーがどの睡眠段階にいるかを推定し、表示する。
「睡眠スコア」の意味と根拠は曖昧
いくつかの研究は、一般消費者向けの睡眠測定テクノロジーと睡眠ポリグラフ検査とを比較し、一般向けの機器やアプリの大半は睡眠段階の測定の精度は不充分だが、不眠症ではない健康な人の睡眠時間や覚醒時間を表示するには充分だろうと結論づけている。
最近のある文献調査は、ウェアラブル機器の精度を高める有望な新技術があると結論づけた。例としては光電式容積脈波記録法(血液量の変化を測定する)、人工知能(計算の精度を高める)、心拍変動のような新しい測定指標などだ。
しかし、メーカーは曖昧で未定義の「睡眠スコア」のような用語を頻繁に使用するため、どう解釈するか難しい場合が多い。消費者は根拠のないスコアに価値を置くことになりかねないのだ。
私は睡眠療法士として、スマホで表示された睡眠スコアが低いことに気分を害する患者をよく見てきたが、実際のスコアの意味や根拠は不明瞭だった。最近の調査では、新しいアプリは、睡眠に問題がない人の場合には睡眠段階を測定するのに極めて信頼度が高いと結論づけられた。
しかし、大事なのは測定データの解釈だ。身体をきちんと機能させるのに深い睡眠の割合が10%で充分な人もいれば20%必要な人もいる。これだけをとっても大きな個人差がある。

