欧州とアジアで需要が増える「夏」
最も厳しくなるのはこの夏だ。フランスのエネルギー大手トタルエナジーズのパトリック・プヤンヌCEOもCNBCの取材で、市場が「機能不全(dislocated)」に陥っていると指摘した。
同氏が懸念するのは、タイミングのバッティングだ。欧州がガスの貯蔵に動くまさにその時期に、アジアではLNG需要が例年急伸する。
ユーロニュースの報道によると、欧州のガス指標であるオランダTTF先物は3月単月で、38ユーロ/MWhから54ユーロ/MWhへと約42%跳ね上がった。CNBCは、一時60ユーロ/MWhを超えたと報じている。
ゴールドマン・サックスは今後、さらなる上昇を見込む。ホルムズ海峡のエネルギー流量の低下が10週間に及ぶ「悪化シナリオ」では、夏のTTF平均が89ユーロ超に。さらに、カタールのインフラに長期的な損傷が生じる「より深刻なシナリオ」では100ユーロ超に達する可能性があると見る。仮に100ユーロを付けたなら、紛争開始後の3月月初の38ユーロ/MWhと比べ、約2.6倍の高値となる。
日本でも価格上昇が予想される。経済産業省によると、攻撃前(2月27日時点)のアジアのLNGスポット価格は100万BTUあたり11.06ドル(約1766円)だった。IEEFAによれば、アジアのLNGスポット取引の代表的な指標価格であるJKM(Japan-Korea Marker)は、封鎖後に2倍に急騰した。欧州とアジアが同時にLNGを必要とする夏は、もう目前に迫る。
経済産業省は緩和策として、2026年度に限り、非効率な石炭火力発電所に対する稼働制限を一時凍結した。本来、脱炭素の方針に沿う形で環境保護のため課してきた規制だ。今回の制限凍結は、石炭を焚き増してでもLNG消費を減らそうという苦肉の策となる。
家庭負担は「年間1万5000円以上」増えるか
だが、同省の試算では、LNGの節約効果は2026年度で約50万トン。ホルムズ海峡経由の年間LNG輸入量約400万トンに対し、1割強にすぎない。
たとえLNGの消費量を多少絞ったところで、国際価格が跳ね上がれば電気代は上がる。問題は量ではなく、価格だ。IEEFAは3月の報告書で、東京電力と中部電力が4月から調達コストの小売転嫁を加速させると指摘した。イラン情勢で燃料費が再び上昇しているためだ。
IEEFAによると、原油1バレル97ドル(約1万4550円)を前提にした試算では、家庭の年間電気料金は約1万5000円増える。ただし、国際的な原油価格指標であるブレント原油はすでに102ドル(約1万5300円)を超えている。1万5000円は、控えめな数字とも言える。
小売業者の淘汰も問題だ。2022年のLNG価格急騰では、195社の電力小売事業者が市場から姿を消した。同じことが起きても不思議はない。
低効率な石炭火力発電を一時解禁したところで、急場しのぎにすぎず、電源構成のLNG依存は何ら変わらない。ウクライナ情勢や中東情勢など、遠く離れた世界的危機に翻弄されない電力源作りには、再エネの大幅な拡大あるいは原子力の再稼働が欠かせないが、いずれも足踏みが続く。エネルギーを安全保障の一環として捉えた、長期的なリスク削減策が求められる。


