――「あの経験があったから、今の自分がある」と、自分で意味付けをするということですね。

荒木:そうですね。若い頃は、今やっていることが何につながるか分からなくてもいい。いきなり賢くなろうとしてはいけません。

後から振り返ったときに、当時は関係ないと思っていた経験同士が線でつながる瞬間がありますよね。バラバラだった点に自分なりの物語(ナラティブ)を見出し、意味を与えてあげる。この「回収する力」がある人は強いですよ。なぜなら、「以前もムダだと思っていたことが後で活きた」という成功体験があるから、新しい挑戦をするときも「今はムダに見えるけど、絶対後から意味を持つはずだ」という自信を持って、他人が行かない道を選べるようになるからです。

そして、この自信がない人ほど、SNS等で語られる即効性のあるノウハウに頼りがちになります。短期的、合理的な「ハック主義」だけを追いかけてしまうと、長い目で見たときに自分らしさを失いかねません。

――その意味では「ゴールから逆算して動くこと」も、逆に自分の首を絞める可能性があるということでしょうか。

荒木:もちろん、短期的な目標、例えば「資格試験で70点を取る必要がある」といった明確なゴールがある場合は、逆算思考は非常に強力な道具になります。

ただ、「100歳で死ぬ時にいい人生だったと思いたい」といった遠い目標に関しては、分岐点が多すぎて逆算なんてほぼ不可能です。それなのに「人生のすべてが逆算可能である」と考えてしまうのは、人生やキャリアの可能性を狭めているようにも思いませんか?

努力にまつわる「落とし穴」
● 効率性を極めようとすると、独自性が失われる
● 「ムダな努力」と「必要な努力」に明確な差分はない
● 行き過ぎた逆算思考は、人生やキャリアの幅を狭める

努力を続けるために必要な「報酬マネジメント」

――「ムダな努力」と「必要な努力」を区分けするのが難しいことは分かりました。ただやはり、頑張っているのに報われない状態が長引くと、心が折れてしまうかもしれません。努力のモチベーションを維持するためのコツはあるのでしょうか。

荒木:何かを続けるために必要なのは、適切な「報酬(対価として得られるもの)」を設計することです。これを「報酬マネジメント」と呼びます。

――地味な作業を続けていれば上司から評価されて昇進する、といったような?

荒木:そうですね。ただ、報酬を「他者からの評価」「年収」「ランキング」といった外的なものに依存するのはオススメしません。もちろんそれらが重要な原動力となるタイミングもあるのですが、如何せん自分でコントロールしづらいので。できれば、「知的好奇心の充足」「技術的な成長」といった内的なものに設定したほうがよいでしょう。

例えば、私がVoicyという音声プラットフォームで8年間毎日配信を続けていられるのは、報酬を「ランキング」に置いていないからです。私にとっての報酬は、視聴回数が増えたり、チャンネルのランキングが上がったりすることはなく、視聴者との対話を通じて知的好奇心が満たされること。これなら、他人に評価されようがされまいが、放送を終えた瞬間、確実に報酬が手に入ります。だから、また明日も配信したくなる。

自分が努力すると、その場で小さな報酬が返ってくる――この循環ができあがって努力を努力と思わず続けられることを、経営学者の楠木建さんは「努力の娯楽化」と呼びましたが、その状態が構築できている実感があります。

努力の娯楽カはこうして起こる
画像提供=MEETS CAREER by マイナビ転職

――なるほど、努力の娯楽化。自分の内側にある報酬に目を向ければ娯楽化しやすい、と。

荒木:そうですね。ただ、SNSやYouTubeなどのプラットフォームは概して、ランキングやビュー数といった外的な報酬をユーザーに意識させるよう設計されています。これは、外的な報酬ほど、私たちの競争心を煽りやすく、のめり込ませやすい傾向があるからです。ただ、そのレースに乗っちゃいけない。

最初は「自分の好きなことを言語化する」みたいな報酬を設定していたのに、知らぬうちに「誰々のチャンネルをランキングで上回る」みたいな報酬にすげ替わってしまうと、報酬が得られず、やること自体も苦痛になっていきます。これは報酬マネジメントに「バグ」が生じた状態です。

それを防ぐためにも、初心に戻って「自分にとっての本当の報酬」を見つめ続ける必要があります。お客さんを喜ばせるために始めた営業の仕事が、いつの間にか「売上目標を達成して年収を上げること」だけを目的にしていないか。もし報酬設計がバグっていると感じたら、意識的に元に戻さなければ、努力が苦行に変わってしまうかもしれません。

外的報酬と内的報酬
画像提供=MEETS CAREER by マイナビ転職