10月に入ってからの米債務上限問題の報道は一段と喧しかった。というのも、米国は本年5月にすでに16兆7000億ドルの債務上限に達しており、デフォルト(債務不履行)回避の緊急措置が取られた状態である。米債務上限問題がそれほど深刻であるなら、5月の時点でももっと話題となってもよさそうなものだが、メディア等で積極的に報じられていた記憶は薄い。5月と10月、同じ債務問題でありながら、なぜ取り上げ方にかくのごとき差が出てくるのか不思議である。

それ以前、米政府がデフォルト寸前と騒がれた一件といえば、2011年が想起される。当時もやはり債務上限に達し、引き上げを認めるか否かで米議会は与野党が対立し紛糾した。特に金融市場を混乱させた直接的な要因として、米政府がデフォルト寸前ということで、米格付け会社が米国の信用格付けを引き下げたことが大きかった。これが同年8月以降、米国株式の大幅下落の誘因となった。

翻って今回だが、格付けに関しては、再度混乱に陥るようであれば格下げも、との意向が格付け会社から表明されているにとどまり、実際に格下げとなったわけではない。本年6月の段階にいたっては、年初の減税失効と歳出の自動削減開始が重なる「財政の崖」を回避したことに触れ、米格付け見通しを「ネガティブ」から「安定的」に引き上げた格付け会社もあったぐらいである。

そして、10月中旬とする債務上限のタイムリミットは8月26日の段階でルー米財務長官が「連邦債務の法定上限引き上げで同意しなければ、米政府の資金が底をつく」と警告していたが、その発表を受けた後の9月にNYダウは史上最高値を更新していたほどである。11年当時とは随分様相が違っていたのだ。

米政府の債務の上限についての法的根拠だが、米国議会調査局レポートによれば、第1次世界大戦の戦費調達として1917年に米政府が発行した戦時国債に上限を定めたリバティ債法案にまでさかのぼる。以来、法律で定められた債務額上限に達すると政府から米議会へ引き上げ要請がされ、そのたびに引き上げを実施。過去20年間だけを取り上げてみても、20回近く債務上限の引き上げがなされてきた。

もちろん、議会が政府の要望に応じなければ、国防や社会保障などの政府活動やサービスに支障が生じ、利払いなどに滞りが生じれば米国はデフォルトとなる。最悪の場合、金融危機が誘発されるという可能性について否定するつもりはないが、債務上限の引き上げに議会の同意という条件を付けたこのリバティ債法は、財政政策のお目付け役としての米議会の役割を示すものである。

今回「オバマケア」が共和党のターゲットとなったように、歴史的に見ても国民経済を守るためという大義名分のもと、野党が債務上限の引き上げ交渉を政局に利用してきたのは間違いない。