※本稿は、飯田哲也『Ei革命』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。
自動車産業に100年に一度の変革
世界の自動車産業は今、100年に一度の地殻変動、すなわち「カーマゲドン(※1)」と呼ぶべき未曽有の変革の渦中にある。この変化は、単なる動力源のモデルチェンジという次元をはるかに超え、産業構造、ビジネスモデル、そしてクルマという製品の概念そのものを根底から覆す、非連続的かつ不可逆的なパラダイムシフトである。その進行は、イノベーションの普及プロセスを示す「S字カーブ」を描き、指数関数的な速度で加速している。
この巨大な変革の波は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、馬車が自動車に駆逐された歴史的な転換を彷彿とさせる。当時、多くの馬車メーカーや関連業者は、自動車の登場を一時的な流行と侮り、あるいは既存事業の改善に固執した結果、歴史の舞台から姿を消した(図表1)。現代の自動車業界で起きていることも、本質的にはこれと同じである。100年以上にわたり産業の頂点に君臨してきた内燃機関(ICE)車は、その役目を終えようとしており、電気自動車(EV)がその座を奪いつつあるのだ。
しかし、カーマゲドンの本質を理解する上で極めて重要なのは、これが単なる動力源の転換、すなわちエンジンからモーターへの置き換えにとどまらないという点である。破壊は、以下の三つの層で同時に、そして相互に深く連関しながら進行している。
第2層:ソフトウェアが価値を定義する革命(SDV化)
第3層:AIがモビリティを再定義する革命(AI自動運転化)
誰が勝者となり、誰が敗者となるか
本稿では、この3層構造を解き明かし、誰が勝者となり、誰が敗者となるのか、そしてこの世界的な潮流から取り残され、「自動車敗戦」の様相を呈している日本の現状と、その根深い課題について論じていく。
自動車市場における最も表層的かつ強力な変化は、EVへのシフトである。世界のEV(バッテリーのみの電気自動車BEV+プラグインハイブリッド車PHEV)販売台数は、まさにS字カーブの急峻な立ち上がり部分にあり、指数関数的な増加を示している。2024年には、EVは世界の年間新車販売台数全体の22%・1700万台超を占めた。2025年の年間EV販売台数はシェア25%以上・2000万台の大台を突破する見通しで、そのうち60%以上を中国市場が占めると見られている(図表2)。
この数字は、EVがもはや一部のアーリーアダプター向けニッチ製品ではなく、完全にメインストリーム市場に浸透しつつあることを示している。対照的に、1世紀以上にわたって市場を支配してきた化石燃料(ICE)車の販売台数は、2017年から2018年をピークとして明確な減少トレンドに入っている。これは、消費者の需要がEVへと不可逆的にシフトしていることの何よりの証左であり、ICEの時代が構造的な終焉を迎えつつあることを物語っている。
※1:「カーマゲドン」とは、自動車産業と市場の急激な変化を指す造語で、ハルマゲドン(人類最終戦争)をもじったもの。2024年12月に英国のスカイTVが同テーマで特集した番組のタイトルから借用した。


